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  1. 旅行パンフレットの内容は正確に!

  2. 未知の国や地域へ初めてツアーを出すときは要注意――パッケージツアーの主催旅行で、提供されたサービス内容に不備がある時の旅行業者の責任

  3. 出発二日前における旅行者氏名のスペル訂正は、「旅行者の交替」か。

  4. 出発二日前における旅行者氏名のスペル訂正は、「旅行者の交替」か(その2)。

  5. ワールドカップサッカーフランス大会「日本アルゼンチン戦」のチケット問題の顛末と教訓

  6. 航空機が目的外空港に着陸したときの航空会社および旅行業者の注意義務

  7. 旅行業者の主催するオーストラリア新婚旅行の一部で、クルーザーを利用すべきところを小型水上飛行機に変更したことが業者の債務不履行に当たるとされたケース

  8. ホテルの宿泊客がトイレで転倒し脳挫傷で死亡した場合に、ホテル側に安全配慮義務違反があったとされたケース

  9. 手配代行者のミスは自己のミス

  10. 宿泊先の変更と債務不履行

  11. ホームページ(WEB SITE)には、登録番号が必要

  12. 顧客とのトラブルの実例解決   担当者のミスで間違った航空券の料金を提示

  13. (続き)顧客とのトラブルの実例解決  担当者のミスで間違った航空券の料金を提示

  14. 海外旅行傷害保険における重複契約の不告知・不通知の効力  モルジブ疑惑の判決

  15. 査証申請用の質問書に、「親指欠損」と補充できるか?

  16. ヨーロッパからの帰路が北回りから南回りに変更

  17. ホテルの予約業務の手数料の時効

  18. 二次会に参加した社員の暴行に対し、その使用者会社は責任がない

  19. イタリアでのバス事故

  20. イタリアでバス事故発生(その2)――デポジション開始

  21. 台湾のパックツアー中のバスの転落事故

  22. パスポートが宅急便で紛失

  23. パラセーリング中に転落負傷

  24. 外国でバス事故が起きた時にはどうしたらよいか

  25. 海外でのバス事故対策(その2)

  26. バス事故(その3)

  27. バス事故(その4)

  28. バス事故(その5 最終回)

  29. 同時多発テロ直後の旅行中止と取消料

  30. マニラでのバス事故

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    旅行パンフレットの内容は正確に!

     「グアテマラとホンジュラスの旅11日間」の内容を説明したパンフレットに、「東京発着であるが、大阪発着も同料金」とあったとすると、大阪発着で申し込んだ旅行者は、東京、大阪間も主催旅行の範囲内なのだろうか。

    この文言を巡って、裁判所の一審、控訴審は含まれないと判断し、上告審は、含まれているとして逆転判決を下している。まさに、一つの文言を巡って裁判が右と左に分かれた「大訴訟」となってしまったのである(上告審、大阪高裁平13.2.7判決。判例タイムスNo1069、237頁)。

    「大阪発着も同料金」とあるので、東京、大阪間も主催旅行の範囲内で問題ないと思う読者も多いかもしれない。このパンフレットでは、「最終の日程、(16:10)東京(18:20)大阪(19:35)、午後、成田空港到着、航空機を乗り継いで伊丹空港に到着」との記載もあり、成田、伊丹間の便も特定できる。しかし、この件はそんなに単純ではなかったのである。

    さて、この件の顧客Aは、一旦この主催旅行の申し込みをしたが、旅行業者B社が、混雑のためこのパンフレット記載の成田、伊丹間の便を確保できなかったことから問題は生じた。B社は、伊丹に一時間遅れで着く便は確保できると伝えたが、Aは、それでは駄目だと申し込みをキャンスルした。

    Aのキャンスル後、B社が受け取った金額をマルマル返せば何の問題もなかったが、所定のキャンスル料を控除して返そうとした。しかし、Aは納得せず訴訟になってしまったのである。

    ではなぜ、B社は、キャンスル料を控除したかというと、実は、この同じパンフレット内に、次の文言もあったからである。

    「国内線は別予約が必要となり、混雑時期等の事由により予約がお取りできない場合には、他の交通機関をご利用いただくことになります。その場合の交通費、宿泊費、その他の諸費用はお客様のご負担になりますので、あらかじめご了承ください」

    「国内線は別予約が必要」との部分には制限がないので、この文言からすれば、逆に、国内線はすべて主催旅行の範囲外とも読める。B社としては、この文言をたてに、Aは主催旅行の範囲外の理由でキャンスルしたのだから、キャンスル料を負担するのは当然と主張した。

    そして、一審、控訴審はB社の言い分に軍配をあげた。しかし、上告審は、パンフレットの文言全体から総合判断し、「本件旅行のページには、「大阪発着」とも記載された上、大阪、東京間の旅程が具体的に記載されている。このことからすると、旅行申し込みをする人が、この旅行の大阪、東京間の国内線は主催旅行の範囲内でないと考えることを期待するのは無理である」と結論付け、最終的にAに軍配をあげた。「国内線は別予約が必要」との部分は、例えば、札幌、成田間、福岡、伊丹間といった成田、大阪以遠を指すというわけである。

     さて、今回、敢えてこの判例を紹介したのは、実際の旅行パンフレットの中に、私自身、このような相矛盾する文言が併存する例を時折見かけるからである。パンフレットを作成するときには、よく使っている文言を寄せ集めて作ってしまうものであるが、そこに落とし穴がある。使い慣れた文言であるが故、かえって、その文言同士が自己矛盾しても気がつかないのである。

    しかし、いちど顧客とトラブルと、このようなちょっとした食い違いから訴訟となり、しかも、裁判所の判断を二分するような「大訴訟」に発展することもある。

    パンフレットを作成するに当たっては、作成担当者以外のものが文言を最終チェックする体制を普段から構築しておくことをお薦めするものである。

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    未知の国や地域へ初めてツアーを出すときは要注意――パッケージツアーの主催旅行で、提供されたサービス内容に不備がある時の旅行業者の責任


    今までパッケージツアーなど不可能だった国や地域でも、治安が安定し、あるいは、国の方針転換により、新たにパッケージツアーが可能になるということはよくあるはずだ。このような国や地域は、未知であるだけに、旅行者にとっても、旅行業者にとっても魅力的である。

    しかし、未知であるが故に、送り出す側も受ける側も経験不足のため、さまざまなトラブルが生じる。今回は、実際に訴訟にまでなったケースを紹介し、トラブル防止の方策を検討しよう。

    サウジアラビアは厳格なイスラム国家であり、主として宗教上の理由から外国人の入国を厳しく制限してきたが、1994年頃から、入国を少しずつ緩和し始め、同国国防航空省に属する政府機関の一つであるサウジアラビア航空が企画管理する旅行に限り、日本人の入国が可能となった。

    A社は、これをうけ、サウジアラビア航空から提示されたモデルスケジュールのうちから2コースを選択し、同航空から交付を受けた資料に基づいて旅行用パンフレットを作成して、「荘厳なるコーランの響き サウジアラビア紀行十三日間」と題して、1999年1月以降、ツアーの参加を募集した。

    しかし、初期に実施された旅行内容には相当問題があり、参加者から強い苦情が出たようだ。旅行後、サウジアラビア航空は、日本副代表を介して参加者に陳謝するとともに、1人あたり100米国ドルを返還している。A社も詫び料として、この100ドルを含め、1人あたり3万円を返還している。

    旅行に参加したBは、3万円の返還だけでは納得せず、旅行内容が契約内容と異なることによる慰謝料として80万円と、代金(83万2000円)が相場より割高だったとして、その財産的損害30万円の両者を併せた金額の支払い(実際は、前述の通りわび料3万円の返還があったので、107万円の請求)を求めて裁判を提起した。

    Bの主張は、

    「最新型の大型バスが予定されていたのに中古のバスだった。サウジ王家の「赤い砂漠」でのロイヤルテントでの食事が予定されていたのに普通人のテントだった。旅行代金が高いのに昼職のうち4階は屋外で箱入り弁当を食べた。予定された訪問地なのに外から見学や車窓からの見学、駆け足の見学がいくつもあった。自由時間が金曜に設定されていたので売店さえ休業していて、何もすることが出来なかった。現地ガイドは能力的に問題があった。「荘厳なるコーランの響き」は、滞在中一度も聞けなかった」

    など、A社に、旅行契約に対する債務不履行(不完全履行)が多数あるというものであった。

    判決自体は、旅行サービスの内容に相当程度不備があることは認めたものの、一審も、控訴審もA社が勝訴している(控訴審 福岡高等裁判所判決平成13年1月30日)。

    控訴審判決によれば、今回の旅行が顧客の信頼ないし期待に十分に応える対応であったともいいがたいとしながらも、旅行の実施の全てがサウジアラビア政府および政府機関であるサウジアラビア航空の管理下にあって、日本の旅行業者がこれに介入することは困難であること、当該旅行の目的地、日程、移動手段等につき、十分な調査を行うことが困難であったこと、旅行サービス提供機関(今回はサウジアラビア航空)の選択の余地もなかったこと等を考慮して、A社の対応は、初めての企画としてはやむをえず、法的に過失があったとはいいがたいと判断している。

    結果的には旅行業者側が勝訴したものの、この判例は、旅行業者にとっては多くの教訓を含んでいる。

    今回のケースは、旅行サービス提供機関が複数存在していたり、事前調査が不可能でないとしたのなら、結論は逆になった可能性が強い。すなわち、初めての国や地域にツアーを出すときには、それが可能であれば実際に現地調査をするなどして、事前調査を尽くさないと旅行業者は法的な責任を問われるということである。この点は、旅行業者はよく肝に銘じてほしいものである。

    ところで、A社は、参加申込者に、「諸々の手配は、サウジアラビア航空の全責任のもとにおこなわれます。現地事情により、入国してからも突然の日程・宿泊地・ホテル等が変更される場合がございます」、「当該変更に関しては変更補償金の対象外とさせていただきます。特殊な国であることをご理解の上、ご参加ください。」などと書いたパンフレットを送付している。判決は、このようなパンフレットを事前に送ったという事実もA社に軍配をあげた理由の一つにしている。

    しかし、読者の方々は、このようなパンフレットを送ってあったのに、後から参加者が旅行内容に対し強い抗議をしてきたという事実の方に注目してほしい。これは、結局文書だけでは、お客は事情を十分理解しないと言うことを意味する。今回も、口頭で丁寧に旅行の特殊性を説明していれば、事後の苦情は相当程度防げたのではないかと思われる。この件に限らず、「トラブル防止の最良の手段は、口頭で必要な説明を尽くす」ということであるということを知ってほしいものである。

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    出発二日前における旅行者氏名のスペル訂正は、「旅行者の交替」か。

     旅行業者主催の海外旅行の出発日二日前に、顧客(旅行参加者)グループの代表者から、グループ内の一人である須藤の姓ついて、その英文スペルを「SUDO」から「SUTO」に訂正する旨の申し出があった。顧客側はこの訂正のためにどのような費用負担をすべきなのか。しかし、たったこれだけのことが、後に訴訟まで発展する大事件となってしまったのである。

    主催者であるA社は、出発日二日前という出発直前のスペル訂正だったので、実質的には旅行者の交替の場合と同じだけの手数がかかったとして、同社の旅行業約款14条(旧運輸省告示の標準旅行業約款に準拠)の「旅行者の交替」に当たると判断し、旅行取消しの場合の手数料(旅行代金の50%以内。本件では3万7500円以内)を基準として、2万8000円を顧客側に請求した。

    旅行業者であるB社は、A社を代理して本件顧客から旅行の申し込みを受けたものであったが、とりあえず、この2万8000円について立て替え払いをした。しかし、スペル訂正は、旅行者(顧客)の過失により訂正が必要になったにすぎず、旅行者が交替した訳ではないはずとして、旅行業約款26条の「旅行者の責任」の規定に基づき、旅行者は手続きにかかった実費を負担すればいいはずと反論した。そして、B社としては、その実費は、1万6000円は超えるはずはないと考えていた。

    差額は、わずか1万2000円であるが、A社、B社間では話し合いが着かず、B社はA社に対し、この差額1万2000円につき、不当利得に基づく返還を求めて訴訟を提起した(実際は、これに加え、被告との交渉に要した営業損失として2万1600円を合わせて請求している)。

    本件のようなスペル訂正は、旅行業の店頭実務では、日常頻繁に起こりうるケースである。また、本件で問題になっている標準約款は読者の所属会社の大部分が自らの約款として使用しているものなので、本件は人事でないはずである。

    さて、それでは、本件で、A社、B社どちらの主張が正しいと言うべきであろうか。

    形式論からすれば、B社の主張は筋が通っている。確かに、本件は単なるスペル訂正であり、旅行者の交替など一切無い。しかし、旅行実務に携わっている方の中には、A社が敢えて本件を「旅行者の交替」と主張した気持ちを理解できるものも多いであろう。

    出発日二日前のスペル訂正となると、通常、旧航空券を取り消し、新航空券の発券が必要となり、また、航空運賃は航空会社に入金されているので、航空券のボイド(取り消し)でなく、リファンド(払い戻し)処理がなされることになる。さらに、この時期となると、多くの場合、旧航空券は、航空券を空港で顧客に渡す業者(センディング業者)に預けられているので、センディング業者から旧航空券を取り戻し、新航空券を渡さなければならない。海外旅行における同一性確認はパスポートの記載の氏名との照合によってのみなされることから、このように、出発直前のスペル訂正は、まさに「旅行者の交替」と同じだけの手間がかかるのも間違いない事実である。実質論から見れば、A社の主張も十分うなずける。

    判決は、B社の主張が認められ、A社には、1万2000円の支払いが命じられている(千葉地裁平成13年1月29日判決)。裁判となれば形式論が優先するので、結果自体はやむを得ないと思われるが、事実として、「旅行者の交替」と同じだけの手数がかかっているので、それが評価されないことについて納得できないという業者も多いであろう。

    しかし、本件では、予防は簡単だったはずである。A社またはB社が、顧客の申込書の記載だけを信用せず、早い時期にパスポートとの記載と照合したなら防げたはずだからである。本件を実務の手順を再検討するための良い教材としてほしいものである。

    また、根本的な対策としては、約款を変更して、航空券の切り替えが必要となるような申し込み事項の変更が合った場合には、「旅行者の交替」と同様の費用負担が必要となる旨あらかじめ規定しておくという方法もある。ただ、この場合は、標準約款と内容が異なることになるので、約款自体につき国土交通大臣の認可が必要となることを忘れないでほしい。

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    出発二日前における旅行者氏名のスペル訂正は、「旅行者の交替」か(その2)。

    まずは、前回(5月15日号)検討した判例を要約して、改めてご照会しましょう。

    「旅行業者主催の海外旅行の出発日二日前に、顧客から須藤の姓ついて、その英文スペルを「SUDO」から「SUTO」に訂正する旨の申し出があった。

    主催者であるA社は、出発日二日前スペル訂正のため実質的には旅行者の交替の場合と同じだけの手数がかかったので、これは「旅行者の交替」に当たると判断し、旅行取消しの場合の手数料を基準として2万8000円を顧客側に請求。これに対し代理して旅行の申し込みを受けたB社は、旅行者が交替した訳ではないので、顧客は手続きにかかった実費1万6000円を負担すればいいはずと反論。差額は、わずか1万2000円であるが、A社、B社間では話し合いがつかず、争いは訴訟へ発展。判決は、B社の主張が認められ、A社には1万2000円の支払いが命じられた」

    これについて私は、次のようなコメントを書きました。

    「本件では、予防は簡単だったはずである。A社またはB社が、顧客の申込書の記載だけを信用せず、早い時期にパスポートとの記載と照合したなら防げたはずだからである。本件を実務の手順を再検討するための良い教材にしてほしいものである」。

    これに対して、読者のKW氏からから、次のようなご意見が届きました。

    「この意見には同意しかねます。本来公文書である旅券を旅行会社が集めるのはおかしい。(査証が必要な場合は別)ましてや、昨今は旅行会社に泥棒が入り、日本人の旅券が紛失する事件も多発中と聞いています。

    これでは、全ての旅客の旅券を一度、旅行会社が集めてスペルチェックをしてお返ししろとのことだとおもいますが?あくまでもネームリスト(またはネーム入り日程表)を作成し、スペルチェックはお客様自身でするように教育するべきだと思います。赤ちゃんでないのですから、お客様にスペルの重要性の自覚を植え付けるように指導することこそ、旅行者の責任ではないでしょうか?」

    読者の方からこのようなご意見をいただけると言うことは、私としては非常に嬉しいことです。私の論考をよく読んでいただいていると言うことの証ですから。今後も、読者の方からどしどしご意見をいただきたいと思います。

    まず、パスポートの件ですが、私もKW氏に同感で、業者は、これを旅行前も旅行後も極力預かるべきではありません。私のコメントも、パスポートの現物を預かれということを言っているわけではないのです。

    問題は照合の方法でしょう。前回は、字数に限りがあったので具体的には書けなかったのですが、私が当初考えていた方法の一つは、初めての顧客とグループ旅行については、スペルの間違いがあると航空券の切り替えが必要になるなど必要な説明を付けたうえ、申込書に記入したネームを記載した照合書面を顧客に送って顧客自身に確認してもらうという方法でした。この照合書面は、日程表を送るときに同封してもいいし、その他、顧客に送る文書の一部を借りてもいいと思います。KW氏のご意見のように、ネームリストやネームリスト入り日程表という形で顧客に送って照合してもらうというのは、結果的には、私の案と同様になると思いますが、このとき大事なのは、なぜ照合する必要があるかを説明することだと思います。

    実は、私はもう一つ照合の方法を考えていました。それは、パスポートのコピーを預かるという方法です。パスポートの現物を預かるのは避けるべきですが、そのコピーを早めに、出来れば申し込み時に受け取っておけば、スペルの問題が解決するだけでなく、有効期間やその他必要事項の確認が可能となります。添乗員も、旅行中、旅行者のパスポートのコピーを一式持参でき、便利だと思います。しかし、これは、KW氏の言われる、お客様の「教育」や「指導」の必要性とも絡み、業者がどこまで旅行者の「面倒」を見るべきか、旅行者がどこまで「自己責任」で対処すべきかの問題を生じると思います。さらには、「消費者保護」がどこまで必要かという難問にもぶつかると思います。是非現場のご意見をお聞きしたいと思います。その上で、いずれこのコーナーでこの問題を再検討したいと思っています。

    今回のケースに限らず、現場からの疑問点、あるいはご意見が有れば遠慮なくご提示ください。また扱ってほしいテーマが有れば、ご一報ください。本コーナーが有意義なものになるための材料とさせていただきます。

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    ワールドカップサッカーフランス大会「日本アルゼンチン戦」のチケット問題の顛末と教訓

    98年6月に開催されたワールドカップサッカーフランス大会は、国際サッカー協会FIFAと大会主催者のフランス組織委員会CFOの不手際やブローカーの暗躍から、全世界的規模でチケット不足が大問題となったことは記憶に新しい。日本でも、日本vsアルゼンチン戦のチケットが不足して、この試合の観戦の主催旅行に必要なチケットが手配できず、多くの旅行者が当時大変苦労したはずである。その中で、訴訟に発展したケースもあった。今回は、判例集に掲載された二つのケースをベースに検討してみよう。

    第一判例は、名古屋地裁平成11年9月22日の判決で、旅行業者として顧客に対する債務不履行責任はあるが、代替する割安の旅行が提供されたことなどにより、顧客の損害が認められなかったケース(判例タイムス1079号240頁)。第二の判例は、京都地裁平成11年6月10日の判決で、CFOとチケットの購入契約をすることにより手配債務の履行をしたと認められ、またチケット不足が判明した後の旅行業者の対応が適切であったため不完全履行にあたらない(つまり債務不履行にならない)とされたケースである(判例時報1703号154頁)。

    いずれの判例も、結果は旅行業者の責任を否定しているが、ここから多くの教訓を得ることが出来るであろう。

    確かに、主催旅行は、サービスそのものを提供するのでなく手配する債務を負っている。この点は、第二判例の言うとおりなのだが、その際旅行業者は手配さえすればそれで責任を免れるものではない。旅行業者は主催旅行の自然的条件、社会的条件について専門的知識、経験を有しまたは有すべきものであり、他方、旅行者は旅行業者のかような専門的知識、経験を信頼して主催旅行契約を締結するものである。となれば、旅行業者は手配債務の履行に際して、旅行サービス提供機関の選択などに関してあらかじめ十分に調査、検討して、専門家としての合理的判断をすべきことも当然のことである。このことは第二判例でも明確に謳われている。

     FIFAは、98年1月にはチケットの割り当て制限を発表しており、公認旅行代理店を通じて一般に販売されるチケットは全体の10%にすぎず、さらに一公認代理店につき割り当ては1試合300枚が限度とのことであった。となれば、日本チームの試合のチケットを確保することは相当の困難が予想出来たはずである。にもかかわらず、第一判例の旅行業者は、ある公認代理店に5000枚(うち対アルゼンチン戦は約1800枚)も注文していた。結果は、約650枚しか入手出来ず大問題となってしまったのである。これでは、旅行業者として必要な注意を尽くしたとはいえないであろう。

     ただ、それでも第一判例の業者が債務不履行の責任を免れたのは、その後の処理が適切だったからである。同社は、本件主催旅行を中止することを決め、旅行業約款(標準約款によっていた)16条6号により契約解除し、併せて試合観戦をのぞいて同じ行程の主催旅行を格安の新価格(約3割引き)を用意し、希望者はそれに参加してもらうことにした。この事件の原告はこの代替旅行に参加しながら、あとから損害賠償を求めてきたものであった。裁判所は、旅行業者に債務不履行があることを認めながら、顧客の損害は無いとと認定したものである。

    第二判例の旅行業者は、自らが公認旅行代理店であったが参加人数分のチケットが入手できなかった。同社は、旅行は催行するが旅行参加者が観戦できなかった場合には旅行代金を全額返済する。現地で人数分のチケットを確保できない場合には抽選で観戦者を決めるということにした。実際には、現地でも不足分を確保できず抽選となったとのことである。ただ裁判所はこのような事後処理を評価し、債務不履行に基づく旅行者の請求を退けている。

    最近は、イベント付きの海外旅行も増えている。その際、必要なチケットを確保できないと言うことも起こりうる。そのときの旅行業者はどう対処したらいいかについて、これらの判例は貴重な実例を提供してくれていると思われるので、ここにご紹介した次第である。旅行業者は、事前の調査、検討を尽くすのは当然であるが、トラブルが生じたあとの事後処理をいかに適切に処理するかも極めて重要なのである。

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    航空機が目的外空港に着陸したときの航空会社および旅行業者の注意義務

     今回は、航空会社に関する判例であるが、旅行業者にとっても参考になると思われるので紹介することとする。

    Aは当時70歳の男性であったが、空港までBに迎えに来てもらうことにして、単身で釜山に行くことにした。97年6月、大韓航空機を使い、関西国際空港から釜山空港に行く予定であったが、航空機は強風のため釜山に着陸できず、ソウルの金浦国際空港に着陸した。航空機内では、日本語が全く使われなかったため、本件航空便がソウルに到着したことをAが知ったのは入管検査の時という状況であった。通関後、大韓航空機の職員の案内でホテルに向かうこととなったが、日本語での説明は全くなかった。Aはやむなく、他の韓国人乗客の後ろについてソウル市内のホテルに行き、そこで一泊して、翌朝再びバスに乗せられソウル空港に行ったが、台風のため航空機の離着陸はなかった。しかし、この間も日本語での説明は一切無く、事情がよくわからないまま引き回されていた。再びバスに乗せられたが、やはり日本語の説明はなく、職員の韓国語の説明の中でソウルステーションという言葉を聞いて、あわてて何人かの人のあとに続いてバスから降りたが、そのあと、大韓航空側のフォロウーは全くなく、全く一人で取り残されてしまった。Aは、一人で苦労してソウル駅にたどり着き、片言の日本語の出来る赤帽に釜山までのセマウル号の切符を買ってもらって、やっとの思いで釜山駅につき、そこで日本語の出来るタクシーを探して、どうにかあるホテルに泊まることとなった。幸いにしてホテルの主人が日本語を話せるため、やっとBと連絡が取れたという次第であった。

    Aは、老人というだけでなく、狭心症と糖尿病の持病があり、さらに、膝を痛めていて、歩行も不自由であったので、釜山にたどり着くのに、普通の人以上に苦労したのであろう。帰国後、大韓航空相手に弁護士を立てず自分だけで訴訟を提起した。

    大韓航空は、国際運送約款第8条により、経路変更の場合、自ら代替手段を提供できなければ他の運送機関に運送を依頼しなければならないことは言うまでもなく、本件ではAを釜山まで鉄道等で送り届けるよう手配する義務があった。

    問題は、大韓航空が韓国語のみで対処したため、韓国語の判らないAは途中から一人で放りだされ、自力で苦労して釜山まで行くこととなったのである。このような場合に、航空会社側に、経路変更について乗客がそのことを理解できるように説明し、案内する義務がどこまでがあるのかということである。

    大阪高等裁判所は、「日本国より、大韓民国に直行するものであり、このような便には、日本語しか話さない乗客が多数いるであろうことは当然に予測されるところであり」、「このような乗客に対する前記のような異常事態における説明、案内などは日本語をも用いるなど、日本語しか理解できないものでも理解できる方法でなされなければならない」として、大韓航空に対し、Aにセマウル号の運賃やタクシー代2万5000円、慰謝料7万5000円、合計10万円を支払うことを命じた(平成10年11月17日判決。判例時報1687号140頁)。

    すなわち、裁判所は、日本発の便であったということをとりあげて、日本語しか理解できない者でも理解できる方法での説明義務を認めているのである。このことからすれば、Aがソウルでトランジットして、ニューヨーク行きの便が、ワシントンDCに着陸したという事態では、英語の説明が有ればそれで十分ということになるかもしれないのである(旅行者の語学力と業者の説明義務の問題は難問である。いずれ本コーナーでも詳しく説明する予定である)。

    さてそこで、旅行業者の方は、本件をパック旅行で添乗員が日本から同行しないケースに置き換えて考えていただきたい。旅行者には、英語が全くだめという者はいくらでもいる。そのよう者にとり、外国の目的外空港に強制降機という事態では、日本語の説明がない限りパニックに陥ってしまうであろう。ことにトランジットが絡まると事態は深刻になる。その結果、目的地に到着できなかったり、大幅に遅れて到着したりという事態は十分にあり得る。

    このような場合にそなえ、緊急事態での連絡方法や対処の方法が事前に的確に説明されている必要が有ろう。そして、連絡を受けた場合に適切なアドバイスが出来る体制も整えておく必要がある。Aも、ソウルのホテルから連絡を取り、適切なアドバイスやサポートが受けられれば、苦労して独力で釜山に行く必要はなかったはずである。

     本件のような事態に対するサポート体制が不十分な場合、旅行業者が責任追及されるということも十分にあり得るのである


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    旅行業者の主催するオーストラリア新婚旅行の一部で、クルーザーを利用すべきところを小型水上飛行機に変更したことが業者の債務不履行に当たるとされたケース

    Aは、96年5月1日、B社と主催旅行契約を結んで、同社の主催旅行「ハネムーンプラン グレートバリアリーフの休日&エアーズロック、シドニー9日間 ヘイマン島コース」に参加した。旅行日程では、2日目のハミルトン島からヘイマン島へと、その帰りである5日目のヘイマン島からハミルトン島への旅客運送機関として、豪華クルーザー「サン・ゴッテス号」が予定されていた。ところが実際は、旅先で突然小型水上飛行機に変更されたことから本件のトラブルが生じたものである。

    このような旅先でのスケジュール変更については、これまでにもいくつかの判例が出ており、旅行業者が勝訴したものと、敗訴したものと両方ある。本件は、旅行業者が敗訴し、債務不履行として損害賠償が認められたケースであり(東京地裁平成9年4月8日判決。判例タイムス967号173頁)、参考になると思われるので紹介し、その問題点を検討することとしよう。

    小型水上飛行機に変更となった原因は、参加者がA夫婦の2名だけだったので、ヘイマン島のリゾートホテルが、それではクルーザーは出せぬと一方的に輸送方法を変更したようである。しかし、宣伝パンフレットでも、豪華クルーザー「サン・ゴッテス号」でのクルージングを堪能しながら、貴族に愛されたヘイマン島に行くことが強調されていたし、Aはそれを楽しみにしていた。このクルージングが、このパック旅行の目玉だったのは事実であろう。それが、突然小型飛行機に変更となれば、Aが怒るのもやむを得ないところである。実際、この小型機は、相当乗り心地が悪く、かつ不安定な飛行だったようである。裁判所も,Aにつき「当然許された期待感を裏切られ、近い将来には同様の楽しみを実現することがほとんどできないとの失望を余儀なくされるという相当大きな精神的苦痛をしいられたといわなければならない」と判示している。

    本件は、最小催行人数を二名として募集していたため、当然これが旅行契約の内容となっていた。Aが変更を了解しない限り、人数が2名だからといって運送方法を一方的に変更することは出来ないのは当然で、B社の債務不履行となること自体はやむを得ないであろう。

    この場合、Aが船でなく飛行機でヘイマン島を往復してもそれでだけで変更を同意したことにならないのは当然である。Aとしては、変更不同意でも提供される手段を利用しなければ旅行を続けられないからである。実際、2日目は、英語の判らないA夫婦が、パイロットに英語で話しかけられ、訳の分からないまま飛行機でヘイマン島につれていかれている。ヘイマン島ではAはホテルに抗議したが受け付けてもらえず、また、旅程表の緊急連絡先に電話しても話が伝わらず、やむなく飛行機でハミルトン島に戻っている。旅行業者の中には、旅行者が代替手段を利用した以上変更に同意したものと見なせるなどと思っている向きもあるが、それは誤解なので注意されたい。

    さて、本件のB社にとって最大のミステークは、ヘイマン島のホテルに対して旅行者が仮に2名でも、クルーザーを運航するよう約束をとりつけておかなかったことであろう。旅行契約で最小催行人員を2名とした以上、仮に2名であっても、旅行内容に変更がないよう必要な手配をすべきことは当然であり、業者の方々は、この点については十分注意をしてほしい。実際は、変更があっても現場で旅行者の了解を取り付けて何とかトラブルにならずにすむことが多いであろうが、旅行者がどうしても納得せずトラブルになり、時には訴訟になることもあるからである。

    本件では、緊急連絡先に連絡しても話が伝わらなかった点も気になる。話が伝わらなかった理由は判決上不明であるが、旅行中のトラブルで、緊急連絡先に連絡しても埒があかなかったという苦情はよく耳にする。今回も、緊急連絡先がうまく対応できれば、トラブルは未然に防げたかもしれない。緊急連絡先が有ってもそれが有効に機能しなければ意味がないので、旅行業者の方がたは、自社の緊急連絡先が機能しているものかどうか常々点検してほしいものである。

    さて、本件で裁判所は、B社に慰謝料として15万円の支払いを認め、財産的損害は認めていない。クルーザーの乗船料金が旅行代金のなかで特定していなかったので、飛行機代金との差額が明らかにならなかったからである。なお、慰謝料15万円という額について、読者の方がたがこの額を多いとみるか少ないとみるかは判らないが、裁判所の認定する額としてはこの程度が普通である。

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    ホテルの宿泊客がトイレで転倒し脳挫傷で死亡した場合に、ホテル側に安全配慮義務違反があったとされたケース

     <本判例の意義>本判例は、ホテルの宿泊客に対する安全配慮義務違反が認められたケースであるが、旅行業者にとっては、旅行者に対する安全配慮義務として同じ問題があり、旅行業者にとっても、いかなる場合に安全配慮義務があるかを考える上で格好の判例なので紹介することとする(東京地裁平成7年9月27日判決)。

    <事案の概要>Bホテルに宿泊したAは、酒によって同ホテルのトイレで転倒して脳挫傷による意識障害の状況となり、最終的には救急車で搬送された病院で翌日意識不明のまま死亡している。

    Bホテルの従業員が、Aの倒れているのを発見したあとすぐ救急車を呼べばよかったが、実際は、Aの状況を泥酔の結果の意識障害と軽信してすぐさま救急車を呼ぶような処置を執らず、その結果、裁判所の認定では、救急車を呼ぶのが6時間遅れてしまった。

    裁判所は、ホテル側が迅速に必要な対処をしてもAが死を免れ社会復帰が出来るまでに回復した蓋然性は認められないとして逸失利益は否定したものの、ホテル側に、2400万円の慰謝料の支払いを命じている。

    <裁判所のいう安全配慮義務>裁判所は、「ホテル営業を営む者は、宿泊客が宿泊施設において事故や急病により医師等の医療専門家の診断を要すると予想し、または、予想すべき状況にある場合には、明らかに本人の反対の意思が認められない限り、医師の往診を依頼するとか、救急車により救急病院への搬送を要請するとか、速やかに宿泊客をして医師等の医療専門家の診断を受けさせる措置を講ずべき義務があると解すべきである」としている。

    この中で、「明らかに本人の反対の意思が認められない限り」という下りは重要である。本人が「医者を頼む」といわなくても、医師の診断を要すると判断すべき時には、医者に診せるよう手配する義務があることになる。

    本件では、「大丈夫ですか」との問いかけに対して、Aは「大丈夫」と答えている。だが、本人がそのように答えても、「反対の意思」があったことにはならない。この点は、ことに、団体旅行の時など注意すべきである。その団体内の他の同行者に任せて何もしないと、この義務違反を問われることがありえるのである。

    <旅行業者にとっての教訓>添乗員付きのパック旅行の時は、旅行業者は、まさに本判例のホテル業者と同じ立場である。旅行者の事故や病気の時に添乗員が的確に対処できないと、本件のBホテルと同様、高額の損害賠償を支払うことになりかねない。ホテル内であっても、添乗員がいるときは、添乗員がホテルに救急車の出動を要請するなど、添乗員の責任は第一次的と考えるべきである。従って、旅行業者にとっては、普段の添乗員教育が極めて重要である。いかなる事態が生じたときには、どう対処するか、マニュアル化することの効果的であろう。

    添乗員のいないときには現地の旅行業者が第一次的な責任をとることになるが、その場合でも主催者に、現地の旅行業者やサービス提供者の選任、監督責任が残ることを忘れないでほしい。

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    手配代行者のミスは自己のミス

    中国旅行のツアーで、旅行日程のなかの「ガイズ村への小旅行」が手配代行者のミスで中止になったケースで、主催旅行会社の債務不履行責任が認められなかった判例がある(東京地裁平成7年10月27日判決)。

    判決の意義この判決は、旅行業者に責任が認められなかったケースとしで紹介されていることが多いが、現行の標準約款では逆に業者が責任を問われるケースなので、今回紹介し読者の方々に、注意を促したい。

     <ケースの内容>旅行会社Bが昭和63年8月に企画・実施した「河西回廊・天山北路とカシュガルの旅」とのパックツアーで、宣伝パンフレットでも旅行日程でも、パミール高原の入口ないし麓の「ガイズ村」への小旅行が記載されていた。ところが実際は、ガイズ村まで行くことが出来ず、パミール高原を臨むことも出来なかった。このツアーに参加したAは、それを不服として提訴したのが本件である。

    当時の中華人民共和国内で法律上適法に運送機関等の手配が出来たのは国際旅行社のみで、B社も本件の現地旅行サービスの手配を同社に委託した。ところが、国際旅行社のミスでガイズ村への旅行の手配を事前に行っていなかった。そのことを現地で初めて知った日本人添乗員がいろいろ努力したが、カシュガルから120キロのガイズ村まで到達できず、手前(カシュガルから約65キロの地点)で引き返さざるをえなかったのだった。

     <裁判所の判断>本件は、平成7年の旅行業法改正以前のケースであったから、旧21条1項但書で、概略「旅行サービスの手配を委託すべき者の選定が強制され、これによる以外に手配が出来ない場合であって、募集に際してそれを明示したときには、委託先の行為については免責される」との規定があった。これに基づき、裁判所はB社の債務不履行責任を否定した。

     <現行の標準約款ではどうなるか>平成7年の旅行業法改正に伴う標準旅行業約款改正に伴い、上述の但し書きは廃止された。中国でも手配代行者は多数になったし、旧ソ連圏の崩壊により、このような但書は不要になったと考えたのだろうか。

    その結果、標準約款23条1項で、旅行業者は手配代行者の責任についても自己の責任と同様に責任を負うという原則に例外が無くなった。従って、現行約款では、本件のように代行者の選定に選択の余地が無くても、その代行者の手配ミスについては、自らのミスと同様に責任をとらざるを得ないのである。

     このような約款の変更が妥当かどうかについてはやや疑問が残るが、現にこのような約款になった以上それに従わざるを得ないのである。

     <旅行業者にとっての教訓>確かに中国や旧ソ連圏の国内事情は大きく変わり、手配代行者は選択できるようになった。しかし、将来のアフガンやイラク、ハイチはもちろん、現在はパックツアーの対象には不適でも将来は可能となるべき地域は多数残っている。そのような地域にツアーを出すときは、その初期には、昔の中国のように手配代行者を選択できないという事態も当然予想される。

     しかし標準約款が変更されているので、もはや今回のような救済判決は望めない。業者の方々は、このような場合でも、現在では手配代行者のミスはそのまま自分のミスとなることをはっきり認識しておいてほしいものである。

     なお、旅行業者が旅行者に賠償をしたときには、ミスをした手配代行者に求償することは勿論可能である。

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    宿泊先の変更と債務不履行

     パック旅行で、旅行業者が無断で宿泊施設をホテルからコンドミニアムに変更したことについて、旅行契約上の債務不履行責任が認められたケース(神戸地方裁判所平成5年1月22日判決)

     <問題の所在>宿泊施設は旅行契約の重要部分である。これを旅行者に無断で変更すれば債務不履行になるのは当然であり、裁判の結果はやむを得ないであろう。今回は、なぜこのような事態が発生したかを検証し、同様なことが起こらないようにするための予防策を検討することにしよう。

     <事実経過>本件は、大手旅行業者のB社が主催する、カナダのウイスラーとバンクーバーでのスキーと観光等を目的とする9日間の旅行契約で、91年1月14日出発、同月22日帰国であった。ウイスラーでは5泊し、「宿泊先は、「シャトーウイスラー」もしくは「デルタマウンテンイン」、またはそれらと同等クラスの他のホテル」とのことで旅行契約がなされていた。 

    トラブルは、この宿泊先を巡って起きた。本来は、これらのデラックスタイプのホテルに泊まるはずが、オーバーブッキングのため実際は「グレイストーン」というコンドミニアムに泊まることとなったのである。

    グレイストーンは、典型的なコンドミニアムで、自炊を前提の宿泊施設であり、中にレストランや喫茶の設備はなく、ボーイによる荷物の移動やルームサービス、モーニングコールなどのサービスもなかった。そのため参加者は、現地では、スキーコーディネーターのところへの集合時間の関係で朝食がとれなかったり、外のレストランまで遠いために買いだめのパンで凌いだりと、かなりひどい目にあったようだ。

    ことに参加者の中でAは、新婚旅行であったこともあり、怒り心頭に達して、後に訴訟にまでなってしまったのである。

    B社は、ウイスラー地区でデラックスタイプのホテルを常時10室程度確保していたが、

     本件のツアーに関しては、フリースタイルスキーのワールドカップ大会の関係者のため、ホテル側が、旅行会社に割り当てていた部屋を回収してしまった。そのため本件のオーバーブッキングが生じたのであり、ホテルがとれなかったことはB社の責任ではなかった。

     問題は、その後のB社の対応である。B社がバンクーバー支店からオーバーブッキングの通知を受けたのは90年12月13日、変更の確定的になったのは同月24日頃   であり、25日にB社は旅行代理店に宿泊先がデラックスなコンドミニアムタイプであるグレイストーンに決まった旨ファックスを流した。しかしそこには、宿泊施設の種類の変更を旅行者に通知説明すべきとの注意はなかった。

    出発7日前、Aは送られてきた日程表の宿泊ホテル名欄に、それまで聞いていなかった「グレイストーン」の名前が記載されていたので不安になり、代理店に設備の確認をしたが、担当者はホテルと異なるとは明示せず、さらに最も重要なレストラン設備を尋ねられても、「朝食付きのコースなのでレストランくらいは有るでしょう」と答えていた。ところが実際は、前述の通り、レストランは無く、Bらは大変不便な思いをすることになったのである。

    <教訓―何がいけなかったのか>

    何がいけなかったかといえば、それは一言でいえば、「慣れ」から来る各担当者の「思いこみ」である。B社も代理店も、担当者はコンドミニアムとホテルの違いがよくわかっておらず、レストランぐらい有ると勝手に思いこんでいたようだ。「思いこみ」の結果、B社はホテルがとれないことが判ってから出発まで十分時間があったにもかかわらず、必要な調査をしなかったのである。

    Aからの問いあわせのあと、代理店はB社に照会している。しかし、B社はそれでも調査をしなかった。さらに、代理店はB社から回答がないにも関わらず、「レストランぐらい有るでしょう」と気楽に答えてしまっている。これらも「思いこみ」からである。

    このような「思いこみ」の背景には、B社は、ウイスラーには継続的にツアーを送り込んでいることから、現地のことは判っているという油断があったのであろう。このように「慣れ」から来る「思いこみ」は、時に大きな間違いを招来することを忘れないでほしいものである。

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    ホームページ(WEB SITE)には、登録番号が必要

     <カリフォルニア州弁護士からの警告>2002年12月のことであるが、私が属している国際旅行法学会IFTTA(International Forum of Travel and Tourism Advocates)のメンバーであるロサンジェルスの弁護士から、会員全員宛に興味深いEメールが届いた。

     その内容は、概略次の通りであった。

    「カリフォルニアの旅行商品販売法CST(the California Seller of Travel Law)では、旅行商品販売のための広告媒体には、それがいかなる媒体であろうとも、旅行業者としての登録番号を明確かつ目立つ方法で(clearly and conspicuously)記載することが要求されている。最近ある消費者団体が、数百の旅行代理店に対して、websiteに登録番号を表示していないか、CSTに従った方法で表示していないという理由で訴訟を提起した。自分の事務所は、被告会社の多数から受任して対処することになったが、このように、登録番号の記載が要求されている州や国は他に沢山あるはずなので、十分注意されたい」

    日本の旅行業法は、第12条の7,同法施行規則第29条で、旅行者を募集する公告には、一定の事項を掲載することが義務づけられているが、登録番号も当然対象となっている。まさに日本も、この警告に従って、十分に注意しなければならない国である。

    <web siteも広告>website(ホームページ)はビジネスの必需品となったが、これが、広告規制の対象となる「広告」であるというこという認識は、旧来の広告媒体とはかなり異なるため、確かに不十分ではなかろうか。

    その結果、カリフォルニア州だけで数百の旅行代理店が、自己のwebsiteに登録番号を記載していないか、記載してもそれがclearlyでなかったり、conspicuouslyでなかったりしていたのであろう。そこに目を付けられて、消費者団体から訴えられたのである。

    日本でも今述べたとおり、登録番号は必ず記載しなければならない(記載方法までは規制されていないが)。日本では、アメリカのように、消費者団体が何百という旅行代理店をまとめて訴訟提起するということは無いであろうが、違法状態は避けるべきなので、一度自社のwebsiteを、「広告」という観点から見直した方がいいであろう。その際、広告として必要な事項は表示しなければならないとともに(施行規則29条)、誇大広告が禁じられていることも忘れないでほしい(法12条の8)。

     <国際化の中での将来の難問>websiteという広告媒体が発達すると、これを使って、例えば、ロサンジェルス在住のアメリカ人が、日本の旅行業者が主催する中国旅行のパックツアーの申し込みをするということもありえよう。このとき、カリフォルニア州のCSTの適用を受ける可能性が出てくる。ことに、現地に営業所があるとその可能性は高い。となると、websiteも外国の法律に適合するよう作成する必要性が出てくる。

    さらに、ツアー中の交通事故により外国人旅行者が死傷したりすると、外国の裁判所に訴訟提起されるということもありうる。となると、その対応は、かなり面倒であろう。

    インターネット時代では、このような国境を越えた難問が続々と発生することになると思われる。いずれこのコーナーでも、このような難問に逐次取り組んでみたいと思っている。

    12

    顧客とのトラブルの実例解決

     担当者のミスで間違った航空券の料金を提示

     今回は、窓口レベルでよく起こるタイプのトラブル実例を使って、その法律上の問題点と、トラブルの解決のコツ、トラブルの予防策を考えてみよう。

     <研究事案>Aは、「ロス行きの出来るだけ安チケットがほしい」と言って航空券の手配をB社に依頼し、同社からは「6万円のC航空会社のチケットがある」との解答があった。Aはその値段が6万円と予想外に安かったので、その後二度も、本当にそれでいいのか担当者に念を押したが、間違いないとの返事であったので、代金全額を送金した。しかしその後、実際はB社の担当者が新人であり、値段表の見間違いをしていたことが判明した。担当者が電話で、「6万円というのは間違いで本当は13万円だったので、それで買ってほしい」と告げると、Aは、「そのような間違えをするようなところには頼めない。キャンスルする」と怒鳴って電話を切った。

     B社は、やむを得ないとC社の航空券をキャンセルしてしまった。ところが、Aが翌日になって、「最初に6万円といったのだから6万円で売ってくれ」と言ってきた。Aは、他の旅行代理店で、航空券の手配をしてみたが、ハイシーズンのため、安い航空券が見つからず、B社にこのように言ってきたのであった。

     B社としては、すでにC社の航空券をキャンスルしていたので、あわてて手配し直したが、C社のものはすでに満席であり、C社より割高のD航空会社の15万円の航空券がやっと手に入った。これより安い航空券はハイシーズンのためすでに手に入らない状態であった。

     <6万円で売買契約が成立してしまったのか>

    6万円で売ると提示した以上、その顧客との間では、その金額で売買契約が成立したことになる。その際、仕入値がいくらかは関係ない。  

    もっとも、通常は申込金の受領が無いと契約は成立したことにはならないが(標準約款5条)、今回のように代金全額の送金を受けてしまうと、契約成立はやむを得ないであろう。

    また、標準約款では、航空券の料金の改定による値上げがあると、その値上げ分は旅行者負担となるが(同15条)、旅行業者のミスで安く代金を提示した場合、提示金額のミスが判明したからといって、その差額を旅行者に負担させるわけにはいかない。

    ところで、民法には錯誤無効という法原理がある(民法95条)。業者が料金表を見間違えたというのは一応錯誤といえよう。しかし、錯誤が重過失で生じたとなると無効とはならない(同法但書)。旅行業者というプロが料金表を見間違えたというのは、重過失といわざるを得ず、錯誤で無効と主張するのは無理であろう。

     <キャンスルしたことにならないのか>

     旅行者がキャンスルを申し出て、旅行業者がそれを了承すると、契約は合意解除される。そうなれば、6万円の契約は白紙に戻るのだが、今回の事案はどうであろうか。

    Aは、担当者との電話のやりとりの中で、「自分が二回も問い合わせたのにそのときは調べもせずに放置し、今になって、やっぱり間違っていたというのは何事か」という気持ちから、怒りにまかせてキャンスルすると言ったが、翌日すぐそれを撤回している。

    このような場合、Aが果たして真意でキャンスルといったかかなり疑問である。仮に、訴訟になると、Aは「あれは、B社の対応があまりにいい加減だったので、強く抗議しただけだ」とか、「キャンスルするとまでは言っていない。きちっと対応しないとキャンスルするぞと言っただけだ」などと言い出すのがふつうだ。

     本件では、電話のやりとりしかしていないから、明確な証拠がない。この場合、キャンスルがあったかどうかは、B社に立証責任があるから、B社にとって極めて分の悪い訴訟となることが予想される。実務ではこのことを前提に、事態をこじらさないよう上手な交渉が必要であろう。

     <次回に向けての問題提起>

     たくさんの顧客を扱っている場合、今回のような初歩的なミスは必ず発生する。その際、最初に対応する担当者の対応が最も重要である。また、顧客がキャンスルと言った場合、それをはっきり証拠だてしていれば、その後のトラブルの打開は容易になる。次回は、これらの点について検討しながら、本件の最終解決を模索しよう。

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     担当者のミスで間違った航空券の料金を提示

     今回は、前回のテーマを続けて検討することとする。まずは、前回の事例をもう一度ご紹介しよう。

     <研究事案>Aは、「ロス行きの出来るだけ安いチケットがほしい」と言って航空券の手配をB社に依頼し、同社からは「6万円のC航空会社のチケットがある」との解答があった。Aはその値段が6万円と予想外に安かったので、その後二度も、本当にそれでいいのか担当者に念を押したが、間違いないとの返事であったので、代金全額を送金した。しかしその後、実際はB社の担当者が新人であり、値段表の見間違いをしていたことが判明した。担当者が電話で、「6万円というのは間違いで本当は13万円だったので、それで買ってほしい」と告げると、Aは、「そのような間違えをするようなところには頼めない。キャンスルする」と怒鳴って電話を切った。

     B社は、やむを得ないとC社の航空券をキャンセルしてしまった。ところが、Aが翌日になって、「最初に6万円といったのだから6万円で売ってくれ」と言ってきた。Aは、他の旅行代理店で、航空券の手配をしてみたが、ハイシーズンのため、安い航空券が見つからず、B社にこのように言ってきたのであった。

     B社としては、すでにC社の航空券をキャンスルしていたので、あわてて手配し直したが、C社のものはすでに満席であり、C社より割高のD航空会社の15万円の航空券がやっと手に入った。これより安い航空券はハイシーズンのためすでに手に入らない状態であった。

     <前回検討した事項>AとB社の間では、6万円でチケットの売買契約が成立している。また、この契約のキャンスルが成立したとみることは難しいと思われる。

     <では15万円を6万円で売らなければならないのか>

    結論的には、そのようにならざるを得ないであろう。

    13万円のチケットを航空会社との間で取消したのは早まったというべきである。このように、トラブル含みでキャンスルという場合では、FAX又はEメールで、キャンスル確認の連絡をして本人の意思確認をしたうえで航空券を取消すか、意思確認が出来なければ、2−3日はチケットを押さえておくべきであった。気が変わることが十分に予想されるからである。

    仮に、3日以上経ってから、Aから「あのときのチケットはもう無いか」といってきても、「お客さんがキャンスルといったので、もう取り消してしまった」と言って、引き取ってもらっても大丈夫であろう。Aがそれだけ放置したということ自体、キャンスルの意志を明確にしたといえるからである。今回、キャンスルが成立したとみるのが難しいのは、Aが、翌日すぐ連絡を取ってきたからである。

    <このようなトラブルが生じたときには、どのように対処すべきなのか>

    お客から「その値段でいいのか」と問い合わさせがあったときには、すぐチェックし直すという謙虚さであろう。これはベテランでも当然のことで、新人ならなおさらのことである。

    しかし、たくさんの顧客を相手にしている限り、ミスは付き物である。そのときに、なんといっても大事なのは、ミスが判ったときの担当社員の最初の対応である。このときのポイントは、なぜ間違えたかという理由を具体的に明示して、率直にわびることである。この点がすっきりとさわやかに出来れば、顧客の90%は納得してくれるはずである。しかし、この段階でスムースに行かないとなれば、こじらさないうちに速やかに上司にバトンタッチすべきである。上司が頭を下げることで、多くの顧客は納得してくれるはずである。

    それでもうまくいかないときどうするか。そのような場合に備え、専門の苦情処理担当者を養成しておくことである。このような処理にふさわしい人材をピックアップするとともに、「顧客相談室長」などいう肩書きを与えておくことがコツである。顧客からみると、たらい回しでなく、それなりの人が誠意を持って対処しているとみえるからである。こじれた事案も何とかこの室長の力量で解決を図ってもらうことである。

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    海外旅行傷害保険における重複契約の不告知・不通知の効力――モルジィブ疑惑の判決

     保険契約者が保険契約の締結に当たり重複契約に関する通知・告知義務に違反した場合において、保険者に契約の解除権を付与する約款は有効であるが、保険契約者において保険金を不法に取得し、保険契約を濫用する目的を有していなかったという特段の事情を主張立証すれば、契約の解除は許されない(東京高裁平成3年11月27日判決)

     <問題の所在>海外傷害保険を申し込むときには、他に傷害保険を掛けていないか聞かれるはずだ。しかし、その際一般の旅行者のなかには、あまり深刻に考えずに、他に傷害保険に入っていても、それを告知しない者が相当いるのではなかろうか。

    損害保険会社の保険約款では、顧客に対し、契約を締結する際に重複契約(傷害保険の被保険者、時期等が共通)であるときはその旨の告知義務を課し、契約締結後に重複契約であることを知ったときにはその旨通知しなければならず、これを怠ると、保険会社は契約を解除できるのが通常である。

    では、顧客が実際にこの告知、通知義務を怠った場合に、保険会社が本当に契約を解除して、保険金の支払いを拒絶できるのだろうか。もし、解除できるとすると、多くの者がせっかく保険にはいっていても、いざという時に保険金を受け取れなくなってしまうであろう。

    本判例は、この問題について、裁判所が判断をしてくれた極めて貴重な判例である。

     <保険契約と事故>Aと妻Bは、旅行業者C社主催のパックツアー「モルジィブ・ビアドゥ島八日間」に申し込み、昭和60年1月3日、モルジィブに向け出発した。ところが、Bは、昭和60年1月5日午後9時頃、モルジィブのビアドゥ海岸で溺死した。

    実は、Aは、旅行に出かける前、妻Bを被保険者として、この旅行期間中について、死亡の場合においては5000万円が二口と、7500万円が一口、合計1億7500万円の海外旅行傷害保険ないし傷害保険を掛けていた。そのため、保険金詐欺の「疑惑」が生じ、当時のマスコミを大いに賑わすことになった。

     <保険金額の制限と告知・通知義務>なぜ、前述の告知・通知義務があるかといえば、我が国の損害保険会社は、同一の被保険者について締結される傷害保険契約の保険金額が自社及び他社を合計して一定の金額を超えるときには、それ以上の保険引き受けを拒絶する扱いをしているからである。本件当時における傷害(死亡)を保険事故とする保険の引受総額の限度は1億5000万円、海外旅行傷害保険の引受総額の限度は1億円とするのが各保険会社の扱いであった。そのような制限がある理由は、保険金額が高額になると、故意に事故を招来するなどして不正に保険金を取得しようとする危険性が高くなるからである。また、海外では、事故招致の証明が困難で、不正な保険金請求が起こりやすいため、海外旅行傷害保険の限度は低いのである。

     <裁判所の判断>冒頭で紹介したとおり、保険契約者が、保険金を不法に取得し、保険契約を濫用する目的を有していなかったことを立証できれば、重複保険であることの告知・通知を怠っていても、保険金はおりるのである。

     本件のAは、実は本判決で保険金の受領を否定された。実は、Aは、旅行に関する情報出版と航空券の販売を目的とする会社を設立してそこの代表取締役を務めており、さらに同社は、ある損害保険会社の代理店でもあった。まさに、旅行傷害保険のプロであった。にもかかわらず、不告知・不通知のまま高額の保険を3口も掛けたとなれば、保険契約濫用の目的がなかったとはいえないと認定されてもやむを得ないであろう(判決では「疑惑」には直接触れていない)。しかし、普通の旅行者が深く考えずに、重複契約の事実を敢えて述べなくても、それをとらえて、保険会社が保険金の支払いを拒否することは出来ないというのが、本判決の判断であろう。

     <教訓>旅行傷害保険を締結する際、普通の旅行者が不告知でも、原則的には保険の支払いを拒絶されることはないといえるが、他の事情も加われば支払いを拒絶されることもあり得よう。旅行傷害保険を勧めるときには、重複保険でないことの確認は、必ず実行してもらいたいものである。さらに、後に重複保険であることが判ったときには、その旨通知しなければならないことも併せて説明すべきである。

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    査証申請用の質問書に、「親指欠損」と補充できるか?

     旅行業者の従業員が、米国査証申請のための質問票に「右親指欠損」と補充記載したことは、本人の同意を得ていなくても委任の趣旨に反する違法行為には該当しない(東京高裁平成2年9月11日)

     <事実経過>Aは旅行業者B社主催の「スペシャルハワイ6日間の旅」に申し込んだ。昭和63年11月のことである。このときの米国査証申請用の質問書には、質問事項18に、「特に目立つ特徴(目に見える傷痕,ホクロ等)」というものがあった。Aは、そこに「ない」と記載したが、実は、同人の右手親指が欠損していた。

    B社の従業員Cは、この質問書を受領後、その質問事項18の欄に「右手親指欠損」と補充記入して、申請書とともに同社のオペレーションセンターに送り、その後米国大使館に提出された。しかしこの間、B社からは誰も、この補充記入についてAからその同意を得ようとしなかった。

    Aが米国大使館に出頭すると、一般の人とは異なる入国申請カウンターに呼ばれ、担当者の指示で両手を前に出させられた上、親指欠損の理由を聞かれ、「仕事で失いました」と答えたものの、ビザ申請は却下された(当時、米国入国に査証は不要になっていたが、不要になって間もないため、B社は入国がスムースに行くよう、旅行者一般に査証取得を勧めていた)。

    実は、Aは自動車修理工をしていた15歳の時に、電動グライダーの操作を誤って右手親指を欠損したものであり、欠損自体は暴力団とは何の関係もなかった。

     <なぜ敢えて補充記入したのか>質問書に虚偽記入すると米国の法律違反となり、入国後発覚すると、強制送還や刑事罰の対象になる。そこで、社団法人日本旅行業協会関西支部では「米国査証マニュアル」を作成して、記入漏れがあった場合には、旅行業者は事前に本人に確認した上、赤ボールペンで追加記入する事にしていたが、ことに、質問事項18では、顔の部分にある傷痕や、ホクロ、イレズミ、指の欠損のある場合には、必ず記入することとしていた。

     Cはこのマニュアルに従って、指の欠損を補充記入したのであった。しかし、本人の意思確認が事前は勿論、事後もなされなかった。

     Aは米国大使館で悔しい思いをしたのであろう。それ故、本件訴訟を提起してきたのである。指の欠損は記入しなければならない事項であったが、B社から同意を求められれば、Aはその時点で、申請を維持するか申請を撤回するかの選択が出来たはずなので、そのチャンスを失ったということはAにとっては納得できないことであった。

     <裁判所の判断>裁判所は、同意を求めなかったということについて問題視はしていたが、欠損自体は事実であるし、それを記入すべきことも事実だったので、「違法な行為であったとみることは困難である」というもってまわった言い方で、一審判決(Aの勝訴)を取り消し、旅行業者の勝訴とした。

     <教訓>本件で旅行業者が勝訴したからといっても油断してはいけない。現に一審では旅行業者が敗訴していたのだし、控訴審も、すれすれで勝訴したというのが実状だからである。

    旅行関係では、ビザ申請や入国、税関手続きなど、一般の旅行者では作成の困難な書類は多い。このような場合、旅行業者が作成のサポートをしなければならないが、ことに本人にとって不利益な情報の追加、訂正の場合には、必ず本人の意思確認をしてもらいたい。それを怠ると、本件のように訴訟まで発展することもあり得るのである。

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    ヨーロッパからの帰路が北回りから南回りに変更

     主催旅行において、必要な航空券がとれず、ヨーロッパからの帰路が北回りから南回りに変更され、そのため、日程の一部が変更され、かつ帰国時間が遅くなったケースで、旅行者にそれを告げないまま出発させた旅行社に、5万円の慰謝料の支払いを命じた(東京高裁昭和55年3月27日)

     <判例の意義>やや古い判例であるが、海外の主催旅行では、起こりうるケースなので、なぜ訴訟まで発展したか、吟味してみたいと思う。

    <何が起きたのか>B社は、昭和52年9月6日から同月17日まで12日間、パリとミラノの商品見本市の視察、およびフローレンス、ローマでのブティック視察をメインとするヨーロッパファッションツアーを企画し、参加者を募集した。Aはこれに参加申し込みをした。B社は、出発前日の9月5日、参加者全員の航空券お手配をしたが、帰路については、エールフランスの北回り便が確保できず、南回りを利用せざるを得ないことが判明した。しかし、B社は、パリで添乗員に北回り便を手配させればなんとか航空券を確保できる余地もあるとして、旅行者には、南回りに変更になったことを告げないこととし、かつ、それが旅行者に判らないよう、東京国際空港では飛行機に搭乗する際に、搭乗券を渡すのみで、航空券を交付することはしなかった。

     添乗員が、パリで北回り便を確保すべく努力したが、結局北回り便は確保できなかった。ところが、9月10日、パリからミラノへ移動する際、フランスを出国する際の出国手続きが厳重なため航空券を旅行者に交付せざるを得ず、その結果、帰路が南回りであることが旅行者に発覚してしまい、一時騒然となった。そして、Aは納得できず、帰国後訴訟を提起するまでになったのである。

    <南回り便で何が不利益か>Aは北回りで帰国すれば17日中に神戸の自宅に帰宅できるはずであったが、南回りで帰国したAは、同日の大阪行きの国内線最終便に間に合わず、東京で一泊せざるを得なかった。

    また、Aは他の同行者とともに、南周りに搭乗するため、早めにパリに移動せざるを得ず、ローマでの自由視察が出来なくなった。

    さらに、また、南回りは、テヘラン、ニューデリー、バンコック、ホンコンを経由し、ホンコンから中華航空に乗り換えてタイペイ経由での帰国となった。これだけ離着陸を繰り返し、かつ乗り換えがあると、それは旅行者にとっては、それはかなりの負担増であった。

    <裁判所の判断>事前に旅程の変更や帰路の変更を告げないまま出発したことは、一旦決まった主催旅行契約についての債務不履行であるとした。しかし、財産的損害は特に生じていないとして、慰謝料として、5万円の支払いのみをB社に命じた。

    <教訓>本件では、南回りへの変更の事実を旅行者に知らせなかったのが最大の問題である。過去の経験から、パリでの交渉で何とかなると軽信したのであろうが、成功しない可能性があるとなれば、出発前に旅行者に変更を知らせ、それでも出発するかどうかの選択の機会を旅行者にあたえるべきである。

    今回は、慰謝料の5万円ですんだが、仮に、Aに翌日重要な業務があり、帰宅が一日遅れたことによりそれが果たせなかったということになれば、かなりの高額の損害賠償責任もあり得たはずである。このことは決して忘れないでほしいものである。

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    ホテルの予約業務の手数料の時効

     海外の特定のホテルの宿泊予約等の業務に関するパッケージ代金には、民法174条の短期消滅時効(1年)の適用はなく、商事債権としての時効(5年)が適用される(東京地裁平成7年7月27日判決)

     <問題の所在>商行為から生じる生じ債権の消滅時効は、原則として5年である。

    しかし、民法174条では、一定の債権について、1年の短期消滅時効の対象になるものが定められている。その3号には、「運送賃」があげられ、4号には、「旅店、料理店、貸席及ビ娯楽場ノ宿泊料、飲食料、席料、木戸銭、消費物代価並ニ立替金」とある。

     よく、「飲み屋のツケは1年」というが、確かに、この4号の「飲食料」にあたる、レストラン、バーあるいはクラブの売掛債権は、一年の消滅時効に該当する。

     旅行関係でいえば、交通機関の運賃、ホテルの宿泊料金、レストランの飲食料は、同条の「運送賃」、「宿泊料」、「飲食料」にそれぞれ該当し、時効は1年である。

     ところで本件では、原告は旅行業者であるが、グアムのAホテルの日本における窓口として、同じく旅行業者たる被告のために、継続的にAホテルの宿泊や施設利用の手配業務をパッケージとして行っていた。そして、その内容は、宿泊、食事を主とし、ハネムーンパッケージ及びウェディングパッケージでは、挙式ビデオテープ撮影、牧師への謝礼等の各種サービスが含まれていた。

     原告が、このパッケージ代金496万円を被告に請求したところ、被告は、当該請求権は民法174条4号の「宿泊料」ないし「飲食料」に該当し、1年の短期消滅時効で既に消滅していると主張した。被告は、勿論通常の生じ債権として5年の時効を主張していた。

     <裁判所の考えは>業者間では、このような継続的取引は結構多い。その際の時効は、1年なのか5年なのかは、実務的には重要な問題であろう。

     裁判所は、原告の本件債権は通常の商事債権として時効は5年であるとし、原告の請求を認容している。

     民法174条4号の「宿泊料」や「飲食料」がなぜ1年の短期時効かといえば、取引において直ちに代金を請求して支払いをするのが通常であり、証拠書類も作成していないのが多いからである。このような取引では、時間がたつと、取引の立証が困難になってしまうので、長期の時効は適しないというわけである。

    個人客が、個別的に交通機関、ホテル、レストランを利用したときなどは、これに該当しよう。

     本件は、業者間の継続的取引で、かつ、パッケージとして、単純な宿泊料や飲食料だけでなく、各種の施設利用料、その他のサービス料もその内容にはいっていた。こうなると、174条4号が予定している内容を遙かに超えている。そのため、通常の商事債権として、5年の時効にかかると判断されたものである。

     <教訓>最近は、取引形態が複雑になり、短期時効が認められるケースは減少しているといえよう。業者間の継続的な予約業務は、ホテルに限らず、交通機関、レストラン等でも、通常の商事の時効5年で処理せざるを得ないのである。

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    二次会に参加した社員の暴行に対し、その使用者会社は責任がない

     <問題の所在>添乗員の仕事は大変である。8amから、8pmというように時間制限をしようと思っても、実際は、時間無制限でツアー客の要請に対応しなければならないというのが現状であろう。

     実際、ツアー客の中には、程度の悪い者も結構いるようだ。思い通りにならないからといって怒鳴るくらいならいいが、なかには暴力を振るう者もいる。それにより、添乗員が怪我をするという事態もあり得るはずだ。そのようなケースで、暴力を振るった本人に賠償請求できるのは当然だが、そのようなことをする者は、えてして賠償能力がないことが多い。結局、賠償金を払ってもらえず、また、被害が大きいと、労災や保険では損害の全てをまかないきれないことが通常で、結局添乗員は泣き寝入りということになりかねない。

    しかし、そのツアーが、ある会社の、慰安、研修、視察などのための旅行であれば、会社に「使用者責任」が有り、会社が賠償金を支払うということが考えられる。会社に責任を取らせられれば、添乗員も損害賠償金をより確実に確保出来るはずである。

    <使用者責任の範囲>「使用者責任」といっても、いつでも会社に責任を取らせられるわけではない。

    研修や視察の最中、あるいはその場所への移動中は「使用者責任」が発生することに問題がない。その会社の主催のパーティーや、宴会の最中、その会場との行き帰りでのトラブルも問題ないであろう。その会社の社員として参加する第三者主催のイベントやパーティーの最中、その行き帰りでのトラブルも問題ない。

    会社の「使用者責任」は、使用者会社の事業の全部又は一部を遂行中する過程で起きた従業員の不法行為について、使用者が責任を負うものなのである。

    しかし、実際問題としては、この「事業の全部又は一部の遂行中」という要件が満たされるかどうかの判断は難しい。この点について、添乗員に直接関わる判例はないようだが、参考になる判例があるので、まずはそれを紹介しよう。

    <参考判例>会社主催の宴会やパーティーが終了し、一部の社員が自分の部屋に戻って二次会をやっているときのトラブルに関する、名古屋地裁昭和58年11月30日判決。

    会社主催の宴会は午後9時頃終了し、その後は自由時間となった。Bは部屋に戻り、そこに集まった12−3名と二次会をしていた。午後11時頃になり、ビールを飲み尽くしたので、Bがフロントに追加の注文に行ったところ、既にフロント業務が終了しており、人がいなかった。Bは、さらにフロントの奥の控え室に入り込んだところ、そこにたまたまホテル専属の楽団演奏者Aが業務上の電話をしていた。Aは、自分はフロントではないと繰り返し説明したが、Bは思うようにならないためか興奮し、「フロントのやつ、どこへいったんや」等と怒鳴りながら、繰り返しAを殴って怪我をおわせ、その結果、Aは75日間も入院する事態となった。

    このような事案について、裁判所は、Bの不法行為たる暴力は、既に自由時間での出来事で、「事業を遂行する過程」でなされたものではないとして、使用者責任を否定した。

    <教訓>本件のAを、添乗員に置き換えると、この判例も、旅行業者にとっては、参考になると思う。深夜にも関わらず、「どこへ行けば酒が飲めるのだ」等と添乗員につめよるような酒癖の悪い人間はどこにでもいる。それに対し「この時間では、もうどこも開いていない」といくら説明しても納得しないような、程度の悪い旅行者を相手にして、苦労した添乗員は多いと思う。

    本件で明らかになった通り、会社の行事でなく、自由時間の自由活動でのトラブルとなると、原則として、使用者会社の責任は問えなくなる。添乗員も、その辺をよく認識した上で、酒癖の悪い人間に対し、上手に対処するノウハウを身につけることが必要であろう。

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    イタリアでのバス事故

     <バス事故発生>

     わたしの事務所にイタリアから国際電話が入った。彼女は、アメリカ人の男性と結婚し、ロスに居住していたが、インターネットでヨーロッパのバスツアーを申し込み、スイスから、イタリアに入ったところで、乗っていたバスが横転し、ご主人共々、重傷を負って、イタリアの病院に入院しているとのこと。アメリカやヨーロッパから参加した同じツアーの客が10人くらいいたが、大部分が重傷で、ことに一番前にいたバスガイドは死亡しているかもしれないとのことで、かなりの事故であった。ところが、主催した旅行業者が、今の病院は料金が高いので他の病院に移させようとしたり、他の乗客の動向を知らせないなど、事故後の対応が極めて不誠実なため、今後どうしたらよいか日本大使館に電話したところ、そんな「民間人」の問題まで大使館は対応できないと、けんもほろろであったという。そこで困って私の事務所に電話をしてきたとのことであった。

    ただ、彼女の話だと、ご主人がアメリカ大使館に電話したところ、「英語の出来るイタリアの弁護士を派遣するのでよく相談するように」といわれたというので、私としては、「とりあえず、その弁護士を頼って対処してもらい、それでもうまくいかないようならもう一度電話するように」とアドバイスして電話を切った。

     その後、イタリア人弁護士の尽力で、二人は無事アメリカに帰国できたものの、旅行業者に対する不信感は解消できず、現在ロスで旅行業者相手に訴訟を提起し、私の属する国際旅行法学界IFTTAの創立メンバーの弁護士が代理人として対応している。

     <大使館の対応>外国で事故に巻き込まれたとき、母国の大使館に相談するのは、緊急の問題を解決するための一つの手段のはずである。ところが、このときの日本大使館と米国大使館の対応は全く違っていた。米国大使館は、英語の出来る弁護士をすぐ派遣し対処させた。他方、日本大使館は、そんなことは自分たちで解決しろと取り合ってくれなかった。

    このケースに限らず、日本大使館は、「自国民の保護」という意識はほとんどないのが現実である。海外で、ツアー中に事故や病人がでたとき、日本大使館は頼りにならない。このことは、よく認識しておく必要がある。旅行業者は、それを前提にどう対処するか、現実的な手順を準備しておくべきである。

     <最初のボタンの掛け違いがないように>今回は、安い病院に移させようとしたり、他のツアー客の情報を隠したりしたことにより不信感が生まれ、最初から弁護士が介入するような事態となってしまった。治療費の負担を少なくしたくて病院を変えようとしたのであろうし、旅行者が結束してほしくいないので、他の旅行者の情報を伝達しなかったのであろう。

     しかし、このような姑息なことをするから、旅行者から不審かを抱かれ、不誠実と思われるのである。事故が起きてしまった以上、可能な限り誠意をつくすことがもっとも負担を低減する最良の手段だということを忘れないで欲しい。最初のボタンの掛け違いは、最後まで響くものである。

     ***このケースが、その後アメリカの訴訟手続きのなかでどう展開していくか、その生の状況を、このコーナーで随時報告する予定である。

     

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    イタリアでバス事故発生(その2)――デポジション開始

    前回紹介したイタリアのバス事故に関し、アメリカで進行中の訴訟でのデポジション(deposition)の様子が届いているので、それを紹介しよう。

    <デポジションとは>日本の裁判は、訴訟が提起されると、通常2ヶ月ぐらい先に第一回口頭弁論が開始し、最初から裁判所主導で訴訟が進行する。

    ところがアメリカの裁判は全く様子が異なる。訴訟が提起されると、被告側は、簡単な答弁書を提出するが、そのあと、裁判所の正式事実審理である公判(トライアル)がスタートするのは、通常1年以上先である(何年もあとということも稀ではない)。ではその間何が行われるかといえば、デスカバリー(証拠開示手続き)が行われる。このデスカバリーが実はアメリカでの訴訟の本当の山場で、多くの場合、デスカバリーが峠を越したあたりで和解が試みられ、アメリカでの民事訴訟の95%は、トライアルまで行かずに和解によって解決するということである。

    さてこのデスカバリーであるが、これには、書類開示要求(Document Request)や質問書による回答要求(Interrogatory)による開示とともに、証人尋問であるデポジションがある。{デポジションは、公判前にあらかじめ相手側の証人から証言をとって証拠確保するもので、公判の時の証人尋問のように相手側弁護士から、反対尋問を受けるというようなことはない。}

    <デポジション当日>場所はサンフランシスコのダウンタウンにある建物の一室(多くの場合、尋問をする相手側弁護士事務所が使われるが、今回は特に会議室を借りたようであった)。出席者は、相手側弁護士1名,A子とアメリカ人の夫、A子側の弁護士2名(勿論米国人)、コートリポーター(法廷速記者)、日英の通訳1名。

    通訳は,A子の要請で相手側弁護士が雇用。他に、A子の夫が依頼したコロラドの弁護士が電話傍聴。

    証言をするのはA子夫婦の2名。 尋問は相手側弁護士で、A子側の弁護士は尋問しない。時間は、A子の尋問が朝9時から2時半、そのあと夫が続き、併せて10時間の長丁場であった。聞かれた内容は、ツアーの申し込みから事故とその救護活動や事故後の状況など、詳細にわたったとのことであった。

    A子の報告では、コートリポーターは極めて優秀だったが、通訳はひどかったようだ。おばあさんというべき年齢で、英→日はプロだが、日→英はA子の方がましという状況で、例えば、「担架」とか「点滴」という言葉の英訳が判らなかったそうだ。結局、A子は、通訳なしで答え、時々トリッキーな質問をされたときに、時間稼ぎのため通訳の方を向いて、訳を頼むというということにしたという。おそらく相手側弁護士は、これをみて通訳の選択に失敗したと後悔したであろう。

    終わってから、A子は、自分側の弁護士に「君の態度・返答はスマートだった。本当によくやった」と褒められたという。デポジションは、A子側にとって大成功だったようだ。

    <最後に一言>{今回は、相手側の弁護士は通訳の選択に失敗したということで後悔していることであろう。このように、国際的な事件では、通訳の能力が裁判に大きな永久を与えるので注意する必要がある。今回は双方用意していないが、通訳チェッカーを別個に雇い、通訳の正確さをチェックすることも多い。

    このように、アメリカの訴訟は、多くのものを雇わざるを得ず、費用がかかるのである。}

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    台湾のパックツアー中のバスの転落事故

    パックツアーで旅行中に、旅行者が外国でバスや列車、航空機事故等に遭遇するというケースは結構多い。今回はそのなかで訴訟にまで発展してしまった一例(平成元年620日東京地裁判決)を紹介しよう。結論は、被告となった旅行業者の責任は否定されているが、そこからは多くの教訓を得ることが出来よう。

    <どんな事故だったのか>台湾旅行の三日目の昭和61224日朝、台中に向かって出発してから約1時間後、日本人旅行者を乗せたバスが国道から逸脱・転落して、8名が死亡し、8名が負傷する大事故が発生した。主な原因は,運転手が対向車とすれ違う際ハンドルを切りすぎた過失であった。

    <主催旅行業者の責任>訴訟で責任を求められたのは、旅行を主催した旅行業者であったが、裁判所は、主催旅行契約について、「単に旅行を実施すれば足りるというものではなく、旅行者の生命・身体・財産の安全を確保することも、同契約の本質的な要素である」と判断した上、具体的には、@安全な旅行行程を設定する義務、A安全な運送サービス提供機関を選定すべき義務、B添乗員を同行させた場合に添乗員が旅行業者の履行補助者として当該旅行者の具体的状況に応じ旅行者の安全を確保するためて適切な指示をなすべき義務があるとした。

    しかし、本件道路が交通の頻繁な幹線道路であって、ことさら危険な道路ではないなど、旅行行程設定には問題はない。バス会社もバス貸し出し業の営業許可を受けており、運転手も業務上の運転免許を受けているとともに運転手組合に属しているなど、運行サービス選定上も問題はない。添乗員も後述の通り過失はない。ということで、裁判所は旅行業者の責任を否定した。

    <添乗員の責任>裁判所は、添乗員には、バスの車体やタイヤの外観、運転手や運転の状況、天候の状況などに異常が有れば運転をやめるなどの必要な措置を取る義務があるとしたが、今回そのような状況は特に存在しなかったと認定した。

    <台湾のバス会社の責任>日本の旅行業者が責任を問われなくても、台湾のバス業者ないし運転手は責任を負うはずであるが、海外の事故では、交渉は相手が遠隔地のため困難であるし、裁判管轄や適用法が外国とせざるをえないことが多く、また、賠償能力が期待できないことが多いなど、多くの困難が伴う。そこで、海外の業者等の責任追及については、事実上あきらめてしまうことが多く、本裁判でも、被告にはなっていない。しかし、日本と現地の法律事務所が提携すれば、その責任追及は可能で、かつ意味があることも多いはずである。

    <教訓>本件は、ポピュラーな旅行コースでの事故で、かつ、出発してからさほど時間が経っていないうちでの事故のため、運転手の単純な運転ミスと言うことで終わってしまい、旅行業者の責任は否定された。しかし、海外の事故については、行程の設定に危険な要素が含まれていたり、サービス提供業者の安全管理能力に問題があったり、添乗員が現場で安全のための適切な対処をしなかったため、旅行業者が責任を問われるこということは十分にありうる。本コーナーでも、今後、海外での旅行者の事故については、さまざまな角度から検討する予定である。

       なお、主催旅行に当たっては、手配を手配代行者に下請けさせることが多いが、この場合、事故が起きると、代行者の選任・監督に必要な注意を払ったと言うだけでは免責されず、手配代行者の責任は、そのまま旅行を主催する旅行業者の責任になることを忘れないで欲しい(標準旅行業約款23条)。

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    パスポートが宅急便で紛失

    パスポートは商法578条の「高価品」には該当しないので、委託者が運送を委託するに当たって、その種類、価格を明示しないからといって、その紛失に当たって運送人が免責されないが、簡易宅配システムでパスポートを送るに当たって、荷物及び伝票上に「パスポート」と明示しなかったことは荷送り人にも過失があるとして、3割の過失相殺が相当とした(東京地裁平成元年4月20日判決)

    <問題の所在>旅行業に実務では、宅急便でパスポートを送るということは、日常よくあることであろう。本件でも、旅行業者である原告は、東京から旅行申込者の山梨の会社宛に、パスポート7通を運送業者の被告に対し、いわゆる宅急便で送ることを委託した。ところが、このパスポートが運送途中で紛失してしまったのである。

     そこで、原告が被告に損害賠償を請求したところ、被告は、パスポートは商法578条の「高価品」に該当するから責任はないと主張した。同条には、概略「貨幣、有価証券その他高価品については、荷送人が運送を委託するにあたって、その種類と価格を明告しなければ、運送人は損害賠償の責任を負わない」とある。

     原告は、荷物にも伝票にもパスポートと記載せず、口頭でもパスポートである旨告げていなかった。仮に、パスポートが、同条の「高価品」となると、運送人たる被告は、責任を負わなくてもいいことになってしまう。

    <パスポートは高価品?>

    パスポートがなければ、海外旅行は出来ない。本件も、パスポートが紛失したため、原告に旅行を発注していた山梨の会社は旅行をキャンセルせざるをえない羽目になっている。パスポートは、間違いなく、取得者にとっては、貴重品である。しかし、貨幣や有価証券のように、価格が高いわけでもない。発行に高額の費用がかかるわけでもなく、また、高額で取り引きされるものでもない。その人を離れたら何の価値もない。本件判例は、パスポートは、その取得者にとっては貴重品であるが、それ自体としては交換価値はなく商法578条の高価品には当たらないとして、運送人に賠償責任を認めた。

     

    <賠償額>

    原告は、ツアー参加者から賠償を請求されていたので、その請求額は、旅行者1人について、航空券キャンセル料3万円、ホテルキャンセル料9000円、台湾入国査証料4500円、旅券再申請料分印紙代6000円、旅券再申請分葉書代40円、ツアー参加者への慰謝料(旅行費用倍返し分)95000円。これが7人分なので合計101万1780円であった。

    <過失相殺>裁判所は、原告の請求額を前提に、3割の過失相殺をして、70万7100円を認容している。この3割分は、旅行業者が、旅行者に賠償しなければならないわけである。

     裁判所は、パスポートは、貴重品であることは間違いはないのだから、その旨明示されていれば、被告側で、特に注意を払って扱い、事故の発生を回避できた可能性を否定できないとして原告側の過失の存在を認め、3割の過失相殺をしている。

    <教訓>旅行業者の実務としては、ビザの取得の場合など、パスポートを宅急便で送るということは不可避であろう。そのような場合紛失事故を可能な限り避けるためにも、中身がパスポートであることを明示して運送を委託すべきでる。さもないと、損害額の一部は、過失相殺として、運送業者は責任を免れ、その分旅行業者が責任を負うべきことになるからである。しかも、パスポートの紛失は、まとまった通数が紛失することが多く、賠償額も本件のように結構嵩むからである。

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    パラセーリング中に転落負傷

    タイでのパラセーリング中の転落事故に関する浦和地裁昭和57年12月15日付け判決は、興味深い事例なので今回紹介することにしよう。

    <どんな事故であったか>Aは、日本の旅行業者B社が主催したタイのパック旅行に参加してパタヤビーチに滞在しているときに、現地の旅行業者C社が募集していたラン島(パタヤの沖合10キロメートルのところにあるリゾート)のオプショナルツアーを申し込んだ。日本人添乗員Dは、Aが申し込む際、他の旅行者のためアユタヤを案内するのでラン島には同行しないことをAに伝えていた。

     Aは、ラン島に向かう船のなかでパラセーリング券を購入してラン島で楽しむこととしたが、事故は、このパラセーリングの最中に発生した。着地寸前の約15メートルから18メートルの高さで、突然パラシュートが窄んで浮力を失い、落下してしまったのである。原因は、Aが眼下の錨に危険を感じて降下の紐を引きすぎたためか、その際逆風が吹いたためか、あるいはモーターボート運転手の運転操作の不手際だったのか、明らかではなかった。しかし、Aはこの事故で、第一腰椎圧迫骨折、両足挫傷の障害を負ったのである。

    <誰が責任を負うのか>訴訟では日本のB社と添乗員Dが被告になったが、判決では、いずれの責任も否定されている。

    現地の旅行業者C社が募集した旅行にAが自分で申し込んで参加した上での事故であって、この旅行はB社が主催していた本来のパック旅行とは別個であり、さらに、Aが船上で、自らパラセーリング券を購入しているのだから、B社の責任はない。

     日本人添乗員Dは事故の起きたとき、本来のツアーであるアユタヤ旅行を案内しており、そのツアーから自ら離脱したAに対し、事故が起きないよう注意する義務はない。

     以上が裁判所の判断であった。

    <もしオプショナルツアーであったならば>本件で、ラン島へのオプショナルツアーが、B社が用意していたものとすると、どういう問題が生じるのであろうか。

    仮に、添乗員が、パラセーリングを薦めたような事情があれば、その際必要な注意義務を果たしたかが問題になろう。パラセーリングは本来的に危険が伴うので、操作の仕方や危険回避の方法を詳しく説明した上で(勿論現地の係員にさせてもいいのだが)、トライさせる必要がある。その説明が不十分で事故が起きたと言うことになれば、添乗員、およびそれを使用している旅行業者の責任が生じる。

    ところで本件では、Aは、パラセーリングの券は、旅行業者が用意したものではなく,Aが船上で自ら積極的に買っている。このように、パック旅行において、自由行動中に、旅行者が自ら選択したものでの事故に関しては、旅行業者がどこまで責任を負うかという問題が浮かび上がる。

    この点について正面から論じた判例はないようだが、自由行動中となれば、原則的には旅行者の自己責任と言うことになり、旅行者は責任を負わないであろう。

    しかし、パック旅行中の自由行動となれば、旅行業側としては、旅行者を全く放置するわけにはいかず、そこで何が楽しめるかという情報とともに、そこでどんなことをすると危険かという危険性に関する情報提供も求められているはずである。

    本件のラン島について考えれば、添乗員は、パラセーリングが楽しめること、しかし、危険なので事前に操作についてよく説明を受けてから挑戦するようにとか、その程度の情報提供と注意を促すことはすべきであろう。勿論、事故情報等を事前に掴んでいれば、旅行者に伝える必要があろう。それでも事故が起きれば、旅行業者側が責任をとることはまずないであろう。

    <最後に>

     本件で、パラシュートの落下の原因が判明しなかったように、海外での事故の原因を追及するのは困難が伴う。従って、海外での事故について、責任追及することは大変な作業となる。その点は、責任を追求する側も、される側も同じである。結局海外の事故では、一旦事故が起こってしまった以上、その後の対処を誠意をもて行い、決してこじれさせないということが、最も大事なこととなろう。

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    外国でバス事故が起きた時にはどうしたらよいか

    <はじめに>最近は、外国で日本人ツアー客がバス事故に遭遇し、重傷を負ったり、死亡したりするケースがあとを絶たない。それが、パックツアーであれば、主催した旅行業者の責任の有無が問題になる。

    このような事故が起こらないようにする体制作りが第一であるが、事故は、どんなに万全の体制を作っても起こりうる。そこで、事故が起きた場合に、それに対する事後の対処が重要となる。事後対策が適切であれば、被害を最小限に出来るとともに、それがその後の紛争を防止する最大の手段となるからである。

    <現地情報取得の難しさ>バス事故が発生したときに、その情報が旅行を主催した旅行業者に届くまでには、時間がかかることが多い。第一報が入っても、その後の情報が入ってこなかったり、錯綜したりして、正確な事態が判らないまま時間が経ち、適切な指示が出来なかったという例が目立つ。同時に、大きな事故だと、マスコミの対応に負われ、混乱が増大すると言うことも多い。

     日本の場合、主催旅行業者が直接、現地のサプライヤー(サービス提供者)に手配するのでなく、間に、日本のツアーオペレーター(手配代行者)が介在することが普通である。さらに、現地の旅行業者が介在する事も多い。このように、間に介在者が多いので、構造的に情報が伝わりにくいのである。従って、主催旅行を企画するときには、緊急時の連絡体制を構築しておくことが重要である。そのためには、介在する現地の旅行業者やサプライヤーとの直接の連絡体制を構築するとともに、それを24時間維持できるようにすべきである。

     マスコミ対策も重要である。実際、マスコミはうるさく且つしつっこい。マスコミに対する窓口を、事故対策グループとは別個に設置しておくことが是非とも必要である。また、マスコミ対策用のマニュアルを作成しておくこともお勧めしたい。

    <添乗員の重要性と限界>日本人添乗員が日本から同行しているときには、この添乗員と綿密な連絡が取れれば現地の状況を判断しやすく、この添乗員を介して現場の指揮も容易となる。

     現在は、添乗員に、現地で通話可能な携帯電話を持たせておけば、連絡は楽である。ただし、いつでもどこでも通話可能というわけではないので、これに頼り切るわけにはいかない。携帯が使えないときの対処方法もあらかじめマニュアル化してほしいものである(実際には、被害者が収容された現地医療機関の協力を取り付けることが効果的である)。

     添乗員に、緊急時の対処方法について、普段から訓練し、かつ、マニュアルを作成するなどの努力をしてほしい。事故現場での、最初期の対処は、添乗員の力量にかかっている。添乗員には、救急車が来るまでの応急処置が出来るくらいの能力を身に付けさせたいものである。

     現地の添乗員の時は、日本人添乗員のような日常の訓練は出来なくとしても、その質は常に把握しておくべきであるし、最低限、直接連絡が取れる体制を構築しておくべきであろう。

     ところで、添乗員については、大事なことを忘れてはいけない。それは、バス事故が起きたとき、最も大きな被害を負う可能性が高いのは、添乗員だということである。添乗員は、バスの最前列に座っていることが多く、また、客席間を立って移動していることも多い。いざ、事故が起きると、重傷を負ったり、死亡したりして、業務を遂行することが不可能なことが多いのである。

     事故時の連絡体制の構築に当たっては、添乗員が機能していないことを前提とした体制作りも決して忘れてはいけないのである。

    * 緊急時の旅行者の安全確保のためには検討すべきことは多い。本コーナーでも、今後さまざまな角度から検討したいと思っている。

     

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    海外でのバス事故対策(その2)

    <カラコルムハイウエー事故>

     カラコルムハイウエーでのバス事故の判例(東京地裁昭和63年12年27日判決)は有名であるが、このケースは、タイヤが道路上の岩石と衝突によりバーストしてバスが転落し、4人が死亡し、9名が負傷する大事故であった。

     このとき、タイヤが丸坊主だったので、それが問題視されたが、判決では、タイヤが摩耗して耐久力が劣化していることと、タイヤのバーストとの因果関係が不明ということで、旅行業者の責任は否定されている。

     しかし、実はこのケースは、両者の因果関係が明らかになればそのようなタイヤの使用を放置していた旅行業者の責任が問われる可能性の高い事案であった。従って、このケースは、旅行業社に多くの教訓を残しているといえよう。

    <現地バス会社対策>バス会社と直接の契約関係に立つツアーオペレーターは勿論、旅行を主催する旅行業者も、現地のバス会社と、平常から、安全対策をうち合わせ、具体的な運行契約を詳細な書面により締結しておくべきである。

     カラコルム事件のようにタイヤが丸坊主というのは、極めて危険なことで、正常なタイヤを使用することを、事前に取り決めておくべきである。また、バス自体も、その使用車種、年式等をしらべ、また、整備状況など、細部を事前に調査し、使用バスの条件をあらかじめ取り決めておくべきである。また、日本以外で、日本にあるような車検制度のある国は稀であり、バスの整備状況は、その会社の能力にかかっているので、その点の注意も必要である。過去の運行実績、安全性についての評判などのチェックも忘れてはならない。

     運転手の数、質、訓練、教育の状況等も注意する必要がある。現にカラコルム判決では、バス会社や運転手に対する事前調査がなされていないことが問題視されていた。いざ、事故が発生すれば、このような事前調査の有無が責任問題の重要な要素になるのである。

    さらには、予定ルートについて、そのバス会社がどの程度のバスの運行経歴があるかも調べるべきである。未経験であれば、ルートの共同調査ぐらいは実行すべきであろう。

    <添乗員のチェックの限界>添乗員は、当日使用するバスについて、タイヤの摩耗度も含め、車体の整備状況全般をチェックすべき義務がある。しかし、以上のような、会社間の事前の取り決めがない限り、仮に、摩耗したタイヤを発見しても、添乗員がその場で、タイヤの交換や、車体の交換を要求するのは事実上困難である。

    カラコルム判決によると、当時のパキスタンでは、新品のタイヤの輸入が厳しく制限され、溝のすり減った中古タイヤが抵抗無く使用されていたとのことであった。このような状況では、事前の会社間の取り決めで使用タイヤの条件を取り決めておくような対策を打っておかなければ、その会社が、安全なタイヤの確保さえしておらず、交換自体が事実上不可能ということになろう。会社間の事前協議は不可避である。

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    バス事故(その3)

    <とにかく情報が錯綜>

    海外でのバス事故では、とにかく情報が錯綜する。いろいろなところから、様々な情報が入ってくる。そのため、死者が出ているのかどうか、重傷者が何人か、怪我の程度はどうか、どこに収容されたのか、正確な情報がさっぱりつかめない。

    しかも、受ける側も、いろいろな人がバラバラに連絡を受けるため、ますます混乱する。そこに、マスコミから、がんがんと問い合わせがくる。また、旅行者の家族から、切羽詰まった問い合わせが来る。さらに、怪我の情報が届いても、素人ではその怪我の程度が判断できず、収容場所がそこでいいのか、帰国を急がせた方がいいのかの判断も付かない。

    このような状況下で、パニックとなり、適切な対処が出来ないということになる。

    <その対策は>

    情報の錯綜に対しては、現地情報に対する窓口責任者を選任し、その者に情報を集中させることである。これにより初めて、その時点での最も正確な事態が把握出来るようになる。

    そして、この対現地窓口とは別個に、マスコミ対策の責任者と家族対策の責任者を選任すべきである。さらに、このような役割分担を前提に、総括責任者が全体的な判断を下し、必要な対策をたてるという、しっかりした組織作りが何よりも重要である。

    さらに、総括責任者には、相談できる医療専門家が必要である。現地の人的な被害状況に関してせっかく詳しい情報が来ても、医者の意見を聞かないと的確な対策がたてられないことが多いのである。

    このようなしっかりした組織作りと医療専門家とのパイプは、日頃から準備していざという時に備えておく必要がある。事が起きてからでは遅いのである。

    <ツアーオペレーターと旅行業者の分担>実際の事故情報は、主催した旅行業者だけでなく、ツアーオペレーターにも飛び込んでくる。情報はどうしても分散してしまう。

    事故が起きたときは、主催した旅行業者が、統一的に対策をたてるべきであり、そこに情報も集中させる必要がある。ツアーオペレーターは、事故に関する情報は全て、旅行業者に送付すべきであり、そのためには、普段の両者間の、事故に備えての打ち合わせも必要であろう。

    現地の一般的情報については、ツアーオペレーターの方が詳しいことが多く、旅行業者が対策をたてるに当たっては、ツアーオペレーターの意見も十分に尊重すべきである。

    <現地へ人を派遣>小さな事故で現地に任せておいて十分な場合、あるいは、現地に自社の支店や営業所がある場合を除いて、速やかに現地に人を派遣すべきであろう。

    派遣された者は、現地で応援してもらえる者を確保した上、現地の人的な被害状況を迅速かつ正確に把握し、それを日本の対策本部に報告して指示を仰ぐことになる。

    その時に念頭に置くべき事は、被害者にその時点での現地で可能な最高の治療を受けさせるということである。その時の収容場所での医療対処能力が不十分となれば、本人が拒否しない限り転院等の対策をたてなければならない。さらに、日本に帰国させた方がいいか、それをいつするかの判断も重要である。

    これらの判断をするに当たっては、医療の専門家のサポートが必要である。理想的なのは、日本人の医療の専門家に現地に派遣することであろう。

    <事故が起きたときに最も大事なことは>それは、誠意をもって迅速に事に当たり、与えられた状況のなかで最高の治療を被害者に受けさせることである。

    このときに、治療費をケチるようなことをすると、被害者はそれを敏感に感じ取る。そのことが、後々に大きなツケとなって返ってくるとは、本稿の第18回、「イタリアでのバス事故発生!」で説明したとおりである。

    もう一つ大事なことを申し添えておこう。現地で、被害者のために日本語通訳を確実に確保することである。外国での事故では、言葉の問題が解決するだけで、被害者は、大きな安心感を得られるものなのである。

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    バス事故(その4)

    バス事故の対処方法に関する話はこれで4回目。その中で、2回目の話に関し、現役の添乗員の方から以下の貴重なご意見をいただいたので、今回はこのご意見を中心に検討してみよう。

    <添乗員からのご意見>「この記事に対して質問させていただきます。
    最後に、『添乗員は、当日使用するバスについて、タイヤの摩耗度も含め、車体の整備状況全般をチェックすべき義務がある。』とありますが、日本の添乗員の労働条件の現状をよくお知りになってから言っていただきたいと思いました。

    もちろん旅の安全確保は添乗員の仕事ですが、現状は添乗員のほとんどが登録型派遣添乗員で、海外添乗の1日の労働時間が、平均12時間以上、平均日給が12900円と他の派遣業種と比較してもワースト2であります。つまり、旅行者の安全な旅の案内人という専門職であるはずの添乗員の労働条件は、その責務に見合ったものでは決してありません。また一度旅程管理者の資格を取った後、各添乗員派遣会社において十分な人材教育やキャリアアップのための制度がほとんど行われていないのが現状です。

    仮に、『添乗員は、当日使用するバスについて、タイヤの摩耗度も含め、車体の整備状況全般をチェックすべき義務がある。』と断言するのであれば、各旅行会社や関係者も普段から添乗員という職の価値を認め、労働条件の改善と人材教育に力をいれるべきと意見していただきたいと思います。」

    <それでも添乗員の安全確認は争点に!>確かに、派遣添乗員は高度な専門職として旅行業界の発展に貢献すべきであるにもかかわらず、労働条件や人材教育については、このご意見通りの問題を抱えているのは事実である。旅行業界が今後真剣に取り組むべき重要問題の一つといえよう。

    しかし、一旦事故が起きると、添乗員はまさに事故現場にいる「会社側の人間」になる。いくら待遇が悪いといっても、旅行者から見れば、旅行会社の一員(法的には履行補助者という)であり、損害賠償訴訟においては、旅行会社とともに、被告の一人にされる事も稀ではない。

    被告にならなくても、添乗員がタイヤ等の安全確認をしたかどうかは重要な争点になる。添乗員が安全確認をしなかったとすれば、それは、添乗員を使用した旅行会社自体が安全確認を怠ったことになる。添乗員は重要な証人にならざるをえないであろう。

    もし、添乗員の待遇が悪いが故に、安全確認義務がないとすると、それを使用する旅行業者も責任が無いことになる。となると、添乗員の待遇という、旅行業者側の内部問題を理由に旅行者が損害賠償を受けられなくなるが、それが不合理であることは容易に理解してもらえるであろう。

    <添乗員の待遇の悪さはどう反映されるか>仮に、旅行業者と添乗員が被告になったとして、裁判所が1000万円の賠償を被告らに命じたとしよう。被告らは全員1000万円の連帯債務を負うことになるが、実際に支払うのは旅行業者であろう。が、支払った旅行業者が、添乗員に対し、現場で必要なチェックを怠ったとして弁済額の一部の分担を求めることはありうる。このように、損害賠償の内部分担を考えるときに、待遇や人材教育の実状が極めて重要な要素として浮かびある。待遇や教育が充実しているのにチェックを怠ったとすれば、添乗員の負担割合が、例えば40%、それらが極めて劣悪であれば、負担割合は、逆に10%やそれ以下、時にはゼロということもあり得よう。

    <最後に>今回のように、読者からのご意見はありがたい。これにより、より深く論点を追求できるからである。今後も、ご意見はどんどん送っていただきたいものである。   

                                                                 

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    バス事故(第5回 最終回)

    <はじめに>バス事故に関しては今回で5回目になる。このシリーズについては、多数の方から貴重なご意見を受け取り、筆者としては、大変嬉しく思っている次第である。そこからは、様々な論点が浮かび上がっており、それを議論すること自体が旅行業界の発展に役立つであろう。ただ、本コーナーは、あくまでも、業界に役立ちそうな法律関係の情報を提供する場所なので、さまざまな角度からの意見をぶつけ合うには限界がある。そこで、travel visionの編集部に、本コーナーとは別に、海外のバス事故に関する対談を特集してもらうこととした。そこで、今回は、将来の対談を視野に入れて、私なりに論点を整理しておこう。

    <安全な商品を提供すべきとする要請> 旅行業者は、パックツアーを販売するに当たっては、それが安全に旅行できると言うことを前提にしているはずである。そのツアーを宣伝するに当たっては、いかにそのツアーが魅力的かを強調して宣伝し、そこで収益をあげるわけだが、収益をあげる以上、旅行者の安全確保は当然の義務となる。となれば、安全に欠陥がある商品を提供すれば、その責任を問われるのもやむをえない。

    パックツアーの安全性確保のためには、その商品設計段階が重要である。その一環として、使用するバスの安全性の確保も必要となる。そのためには、そのバス会社と事前に安全確保のための交渉をし、それを義務化する具体的な契約が必要であろう。このことは、今回のバス事故シリーズの第二回で強調したところである。そして、その契約の趣旨を現場で実現するためには、現場の添乗員の安全確保の点検が必要になる。商品の安全性の確保のためには、現場の添乗員の安全チェックが必須の要件となる。

    とはいえ、現在においては、このような安全確保のための契約を用意するというのは、まだまだ実行しているところは少ないのが現実である。今後の業界の努力に期待したいところである。

    <派遣添乗員からの疑問>バス会社と旅行業者との間で、このような安全確保のための事前契約がなければ、現場にいる添乗員からすれば、安全確保のチェックは「事実上不可能」であろう(第二回では、「事実上困難」といったが、「事実上不可能」といたほうが正確であろう)。目の前に、溝の無くなった丸坊主のタイヤのバスがあっても、危険だからそれを取り替えろとはいえないのが現実で、タイヤの変更や代替車両を強く要求すれば、出発自体が不可能になりかねない。

     このことは、正社員の添乗員の場合は、顕在化しないであろう。自分の所属する会社が、事前に、そのバス会社と安全運行のために具体的な運行契約があればそれに従うし、なければ、その前提がないだけである。

    しかし、派遣添乗員の場合は、そうはいかない。その旅行だけ派遣されているので、派遣先が、どれだけ事前の安全対策がなされているかわからない。運行契約を含めた事前の安全確保のための前提が無いのに不可能なことを押しつけられ、添乗員にだけが責任を押しつけられるという、まさにその「しわ寄せ」だけが来てはたまらないということになろう。

    <解決への方向は?>なんといても、旅行商品をその設計段階から、安全確保に必要な対策をたてるよう旅行業者は努力すべきである。バス会社との事前の安全確保のための運行契約が必要であるし、それを前提での、具体的で合理的な添乗員に対する指示書が必要であろう。その指示書のなかには、添乗員が何を点検すべきか、異常が発見されたらどうするかなどが明確に示されているべきである。

    ただ、これが実現するには、業界において、今後かなりの努力が必要となろう。

    とはいえ、現在でも、海外で事故があったときに、添乗員が、旅行業者とともに被告席に立たされるということはありうる。その時は、ことに、派遣添乗員の場合は、自分がなぜそこにいるのか納得できないことが多いであろう。

    その場合での派遣添乗員は、その立場の特殊性を強調しアピールすることになる。しっかりした法論理を構築すれば、旅行業者は責任を追及されても、添乗員の責任は軽減され、あるいは、免責される余地は十分にありえる。私もその法論理の構築には、努力を惜しまないつもりである。

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    同時多発テロ直後の旅行中止と取消料

    米国同時多発テロの発生直後に旅行に出発し、旅行先で海外危険情報(危険度三)が出されたため当該旅行が中止になったケースで、旅行業者には、約款上、旅行出発前に取消料無しでの旅行契約解除が出来る旨の説明をする義務があり、それを怠った旅行業者には旅行者に対し解除するか否かの選択判断の機会を失わせる違法があったとして、旅行業者に慰謝料支払いを命じた事例(東京地裁平成16年1月28日判決)

    <事実関係>米国同時多発テロは平成13年9月11日。原告ら5名が参加した被告会社主催のパックツアーは、テロ直後の同年9月15日出発、10月6日帰国の予定で、カザフスタン共和国、キルギス共和国、ウズベキスタン共和国、及びトルクメニスタン共和国を巡るものであった。しかし、旅行中の9月21日、トルクメニスタンに外務省の海外危険情報の危険度三(渡航延期勧告)が出されたため、被告会社は9月26日以降の原告らの旅行を中止する事を決定し、帰国便等の手配をした上で26日朝、旅行者に発表し帰国の途へついた。

     これに対し、原告ら5名はそもそも途中で中止になるようなパックツアーに参加させられたこと自体が不満だったようで、本件訴訟提起となった。

    <旅行者による取消料無しの解除は可能だったか>標準旅行業約款15条2項によれば、旅行者は、「天災地変、戦乱、暴動、運送・宿泊機関等の旅行サービス提供の中止、官公署の命令その他の事由により、旅行の安全かつ円滑な実施が不可能になり、又は不可能になるおそれが極めて大きいとき」には、旅行開始前に、取消料を支払うことなく主催旅行契約を解除できることになっている。

    本件の旅行先地域は、アフガンに隣接する。当時、アメリカ合衆国によるアフガン軍事報復の可能性が指摘され、その情勢の悪化が逐次報道されていた。そのため、原告らのなかには、不安を覚えて、取消料の負担のない取消を申し込んだり、旅行の安全性を問い合わせする者がいるような状況であった。

    しかし、被告会社は、本件解約条項は適用されない(取消料の負担無しの解除は認められない)との立場で本件旅行を催行した。

    運輸省(現国土交通省)は、旅行業者に対し、海外危険情報の危険度一の時は、その旨の書面を交付して十分説明し、危険度二にから五の場合は、主催旅行を実施しないとの通達を出している。本件では、本件旅行先地域に対しては、9月21日まで「危険度二以上の危険情報」は出されていなかった。

    被告会社は法廷で、この通達の存在や、エジプトで発生した日本人観光客銃撃事件(平成9年11月17日)についての裁判例などを根拠に、本件解除条項の適用の可否は、上記通達に定める海外危険情報の危険度二以上が出されているかどうかにより決すべきであると主張した。

    <裁判所の判断>裁判所は、危険度二以上の海外危機情報が出されているかどうかで決するのではなく、「本件解除条項の適用の可否については、旅行の日程や内容、旅行先の外国地域の政治・社会情勢及びその変化の見通し等の諸事情を総合的に勘案して、旅行の安全かつ円滑な実施が不可能となるおそれが極めて大きいと認められるかどうかにより判断すべきである」としたうえ、本件は、当時の情勢の悪化のなかでは、危険度二以上の危険情報が早晩出され、ひいては旅行が中止になる可能性が高く、被告においてもその予測が十分可能であったと認められると判断し、本件解除条項の適用を肯定した。

    そして裁判所は、被告会社が遅くとも出発時に、本件解除条項に基づいて取消料無く解除できることを説明する義務を負っていたとして、それを被告会社が怠ったことにより、原告らにおいて本件旅行を解除するかどうかの「選択判断の機会」を失わせたと認定し、被告会社は原告らに慰謝料として一人5万円の支払い義務があると判決した。

    <教訓>米国同時多発テロ生当時、取消料無しでの解除を認めた旅行業者もあったが、本件被告会社のような立場でそれを認めず、ツアーを催行した会社もあったようだ。テロの危険が去らない現在、海外危機にたいし、旅行業者はどう対処したらよいかの判断は難題である。本判決を一つの参考資料として、判断基準をどこに求めるか、十分に議論してほしいものである。

     

     

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    マニラでのバス事故

    今回は、マニラ郊外で起きたバス事故の判例(静岡地裁昭和55年5月21日判決)を検討しよう。判例自体は古いものであるが、その内容は今でも十分に参考になると思われる。

    <どんな事故であったか>Aを含む団体客30人は、日本の旅行業者であるB社がチャーターしたバスに乗り、マニラ南方60キロの景勝地タガイタイの観光に行った。その帰路の午後3時45分頃、タガイタイからマニラに向けて25キロの地点で、皆が乗ったバスは、前を走っていたトラックが速度を緩めたため、時速80キロでそのトラックに追突してしまった。

    Aは運悪く、この事故により左足切断等の重傷を負った。帰国後、AはB社との交渉がうまくいかず、夫とともに訴訟提起した。

    <事故の責任者は>発展途上国の交通事情は悪いし、運転が荒っぽいことは周知の事実。旅行者を乗せたバスは、自転車やバイクや人を押しのけて、高速で飛ばす。追突など、いつ起こってもおかしくない。

    追突となると、通常は運転手の過失は明らかである。海外の事故では、運転手やバス会社に責任があるかが不明のことが多い。外国の事故では証拠集めに多大の困難が伴うためであるが、本件はその点では恵まれている。

    とはいえ、日本では、まず、バス会社や運転手の責任が問題となり、旅行会社が責任追及の対象となることは稀である。しかも、保険が完備しているので、訴訟になることも稀である。

    しかし、フィリピンに限らず、外国のバス会社や運転手を訴えるのは、裁判管轄や支払い能力の点で事実上不可能に近い。そこで、旅行を主催した日本の旅行業者Bが責任を負うかどうか重要となるのである。

    <主催旅行業者の責任>旅行者から見れば、フィリピンのバス会社や運転手は、主催旅行業者の履行補助者(手足のようなもの)として、これらの者の責任は、主催旅行業者の責任そのものとしたいところであり、この訴訟でもAはそのような請求をしている。しかし、本件の裁判所は、主催旅行業者は、これらサービス提供業者に対しては、選任、監督のみについて責任を負うと判断した。

    そして、このときフィリピン側で手配を担当した旅行業者は、フィリピン国で最も信用のある旅行業者であり、バス会社は、フィリピン政府観光省認可を受けていた。裁判所は、このことを前提に、裁判所は、本件でのバス会社や運転手の選任、監督に何ら問題はないと判断した。

    <まとめ>現行の標準旅行業約款では、手配代行者の責任は主催旅行業者の責任そのものであるが、バス会社、ホテルや航空会社のようなサービス提供業者に対しては、主催旅行業者は、選任監督のみ責任を負う事が明確化されており、本件判例の判断内容と同様となっている。

     とはいえ、本件は、運転の荒い発展途上国では、いつ起こってもおかしくない事故のパターンである。仮に、本件が、10時間も同一の運転手が運転しているようなケースではどうだったであろうか(本コーナー第24回で紹介したカラコルムハイウエー事故はそのような状況であった)。かつてのバス事故のケースをみると、行程自体に無理があるケースが実に多い。そのような場合に、追突であっても、運転手の過労が起因しているのでないかといわれることも十分予想できる。

     パックツアーという旅行商品を開発するに当たっては、その安全性については、商品設計段階で十分な調査と検討をすべきである。行程の安全性を十分に吟味し、またサービス提供業者とは、安全性について十分な打ち合わせをして、安全管理契約をしっかりと結んでほしいものである。